「なあ、そういえばことみって普段何してるんだ?」
いつものように授業をサボって図書室に来ていた俺は、ふと疑問に思ったことをそのまま口にした。
ことみに会うのはいつも図書室か演劇部の部室だ。………時々家に遊びに行ったりするけど。
とにかくことみのクラスでの様子とかが気になった。
「いつもここで本を読んでるの」
表情を変えずにさらっと答えることみ。
「いや、俺が聞きたいのはそういうことじゃなくて………」
「???」
ことみは首をかしげてきょとんとこっちを見る。
ああっ! かわいいなぁ!
………じゃなくて。
「朋也くん、どうしたの?」
「………いや、やっぱなんでもない」
きっと、いや、絶対に聞いたところでなんか難しい言葉とかを並べられて理解するのに一苦労だろう。
と、言う訳で明日はことみの一日を観察することにした。
一ノ瀬ことみ観察記 著・岡崎朋也
AM7:00
俺は一ノ瀬家の前にいる。
一日を観察するに当たって、やはり登校風景から始めるのは当然だろう。
この為に今日は5時に起きて万全の体勢で事に当たっている。
ことみが家から出てくるのを今か今かと待ち構えているところだ。
ことみの事だから学校をサボったり遅刻して行ったりする事はないだろう。
ことみがどんな一日を過ごしているのか楽しみだ。
AM8:00少し前
ことみが家から出てきた。
手に持っているのは鞄一つ。今日もあの中は本で一杯なのだろう。
ゴミを捨てに来た奥様方の視線がとても痛かったので助かった。
頃合を見計らい、偶然を装って合流しようかと思う。
AM8:05頃
ことみと合流して登校。
ことみは何も疑わずに嬉しそうにしていた。
少し心が痛むけれど好奇心には勝てない。
AM8:10頃
更に藤林姉妹と合流。
杏にバイクで撥ねられる心配が無いのは嬉しいが、顔を見るなり「げ、傘持って来てないわよ……」と言われるのは心外だ。
いつか痛い目にあわせてやろうとひっそりと心に誓う。……春原を使って。
AM8:15頃
最後に古河と合流。
杏と違ってしっかりと挨拶をしてくれるのは嬉しい。
でも、やはり俺がこの時間に登校するのは珍しいらしい。
古河にまで「今日は珍しいですね」と言われてしまった。
AM8:20頃
学校に到着。
昇降口からそれぞれの教室へばらばらに行動する。
距離をおいてことみの後をつけようとしたら藤林に止められる。
正直にことみの一日を観察している旨を告げると「やめておいた方が……」と控えめに言われる。
やめる気はない事を言い聞かせると、トランプを取り出したのでさっさとこの場を離れた。
AM8:30頃
ことみが教室に入った。
割と人気はあるようだ。すれ違う人それぞれと挨拶を交わして席に着く。
それにしてもどうしてあの鞄を音も無く机に置けるのだろうか。
………今度こっそりあの鞄を調べてみよう。
AM9:00
HR終了後、ことみは真っ直ぐに図書室へ向かう。
今日も授業を受ける気はないようだ。
………俺も人の事言えないな。
AM9:05頃
恒例の掃除も終わり、クッションを設置する。
そのまま今日の分の本を物色し始める。
………そういえば鞄を持ってきてないけど、本はいつ返却するんだろうか。
それも観察を続けていれば分かることだろう。
AM9:10頃
読む本も決まったようでいつも通りに素足になる。
読んでいる本を表紙から推測しようにも英単語の羅列が理解できない。
AM10:00頃
…………退屈だ。
ことみは本に集中していて動きが全く無い。
こんな事になると分かっていたはずなのにどうして春原を連れて来なかったのだろうか。
過ぎたことを悔やんでもどうにもならない。とりあえずこのまま観察を続行する。
AM11:30頃
ありえない。
辞書ぐらいはあろうかという分厚さの本をもう読み終わった。
しかも表紙からして英文の本だったはず。
今度の試験はことみの力を借りてみようかと思う。
AM11:45頃
どこからか弁当を取り出して食べ始める。
俺は前もってコンビニで菓子パンを買って来ていたのでそれを食べる。
どうせパンなら古河パンで買うという手もあったが、早苗パンという地雷を踏むわけにはいかないので妥協した。
PM12:15頃
そろそろ一般の利用者がやってくる時間帯らしい。
ことみは後片付けをし始める。
見つからないように少し離れた教室に潜伏する。
PM12:20頃
廊下を歩いているだけだが、嫌な予感をひしひしと感じる。
とりあえずこのまま距離を保って後をつける。
PM12:25頃
ことみはある教室になんの躊躇も無く入っていく。
ここは………音楽室?
音楽室に何の用があるのだろうか。
興味は尽きない。
PM12:50頃
………好奇心は猫をも殺す、って本当だったんだな………
PM1:00頃
再び図書室へ。
朝と同じように掃除、クッションの設置、本の物色をし、読書再開。
今度は………ハングル?
今更ながらにこの学校は少しおかしいと思い始める。
というかハングルも読めるのか、ことみ。
PM3:50頃
そろそろ演劇部に皆が集まる時間だ。
ことみは後片付けを開始する。
こうして見ていると意外と片付けのスピードは速いと気付く。
PM4:00頃
演劇部(仮)全員集合。
今日も杏がことみにツッコミの極意を教えるという無駄な努力をしている。
誰の目から見てもことみはツッコミには不向きだというのに、何が彼女をそうさせるのか。
………ってこれは杏の観察記じゃない。
PM4:30頃
今日の分のツッコミレッスンは終了、と思ったら実践訓練をするらしい。
俺のボケにことみが的確にツッコミをする、という形らしい。
絶対に無理だと思うけど付き合わないと杏がうるさい。
おとなしくボケておこう。
PM4:50頃
やはりことみのツッコミは惨敗だった。
杏に部室の隅で素振りをやらされている。
ツッコミは素振りでうまくなれるのか?
杏の教育方針に少しばかり疑問を持つ。
PM5:00頃
今度は藤林の占い大会が始まったらしい。
女の子は占いが好きだと言うが、杏には当てはまらないのだろうか。
苦虫を噛み潰したような顔をしている。
ことみは占いをするのは始めてらしい。
占いの結果は散々だったようだ。
古河と藤林がことみを慰めている。
と思ったら「占いは当たるも八卦、当たらぬも八卦なの」と気にした様子は全く無かった。
PM5:30頃
何故か小道具の剣を持たされて即興の演劇をする羽目になった。
脚本はことみ。とはいっても大まかな配役だけで台詞はアドリブだが。
それもこれも古河が突然「演劇がしたいですっ」と言い出したからだ。
………そういえばここは元々演劇部だったんだな。
勝手に居座らせてもらっている身として、最高の騎士を演じて見せよう。
PM6:00頃
大真面目に騎士を演じてやったら藤林姉妹に揃って驚かれた。
杏だってノリノリで悪役を演じてただろうが。
お前の悪役の方がお似合いだった、と言ったら辞書が飛んできた。
こういう時に春原が居ないのが辛い。
ことみの優しさが身に染みる。
PM6:10頃
使った小道具を皆で片付けて下校する。
いつものように交差点で三人と別れ、ことみの家に向かう。
……どうしてことみはこの鞄を苦も無く持てるのだろうか。
「朋也くん、今日のお昼はどうして来なかったの?」
横を歩いていることみが少し悲しそうにそう言う。
「今日もお弁当をはんぶんこしようと思ったのに………」
心が痛む。あんなにことみの近くに居たのにどうして隣に行ってやらなかったのか。
「悪い…… 俺、今日は……」
「………なんちゃって、本当は椋ちゃんに全部聞いたの」
「こっそりとことみの………って、マジ?」
「うん、まじなの」
今日の俺の行動が全部ことみに筒抜け?
……なんか物凄く間抜けになった気分だ。
ことみがこの事を知ったのは、放課後の占い大会の時に俺の事で相談したからだそうだ。
「お昼休みに朋也くんが来てくれなかったから私の事が嫌いになっちゃった」のではないかと心配になったらしい。
そして占いの後に藤林が事の真相を全てことみに話した、と。
「悪かったな、ことみ。でも俺がことみの事を嫌いになる訳ないだろ?」
言ってから結構恥ずかしい台詞だな、と少し後悔。
「ううん、いいの。今も朋也くんが私の事を好きでいてくれるってわかったから」
ことみも負けず劣らずな台詞で返してくる。
「……今の台詞、少し恥ずかしかったの………」
「じゃ、もっと恥ずかしい台詞を言ってやる」
「……え?」
ことみが驚いている隙に次の台詞を続ける。
「俺、岡崎朋也は死ぬまでずっと、一ノ瀬ことみを好きでいる」
「えっ、あ、と、朋也くん?」
かぁー、っと顔が赤くなるのが自分でもよく分かる。
ことみの顔がまともに見れない。
柄じゃない事はするもんじゃないな。
「わ、私もずっと朋也くんを好きでいるの……」
「……え?」
消え入りそうな声でそれだけを言うと、ことみも顔を伏せる。
結局、ことみの家に着くまでお互いに口を開く事は無かった。
PM8:30頃
ことみと二人で夕飯を食べる。
昼にできなかった分、何でも仲良くはんぶんこだ。
やはりことみの料理は美味い、と言ったら「朋也くんが食べてくれるから美味しく作れるの」と可愛い事を言ってくれた。
そういえば、と占いの結果を聞いてみた。
「今日は前途多難な一日でしょう。これからも大変な事が起こるけれどくじけないで頑張りましょう」
「占いは外れたけれど朋也くんと一緒に居れてうれしいの」と、ことみ。
今日はずっと一緒だからな、と答えておいた。
一ノ瀬ことみ観察記・終
執筆後期
シロ「おめでとう! 10,000Hit!」
ことみ「おめでとうなの」
シロ「という訳ででっきーの好きなことみのSSをお送りしました」
ことみ「今回はたくさん頑張ったの」
シロ「たくさん頑張ったけど………自分でもよく分からない物に仕上がった気がする」
ことみ「きっと大丈夫なの。でっきぶらしくんはそんな事気にしないはずなの」
シロ「……そうかな?」
ことみ(こくり)
シロ「んじゃ、気にしない方向で」
ことみ(今更気にしたところで遅いだけなの)
シロ「ん? なんか言った?」
ことみ「気のせいなの」
シロ「……ま、いっか」
ことみ「話がまとまったところでそろそろお終いにするの」
シロ「そうだな」
シロ・ことみ「「また会う日まで」なの」
シロ「ついでに誕生日おめでとう、ことみ」
ことみ「嬉しいけれどついでみたいで嫌なの………」
管理人感想
甘めSSをありがとうございます
私も連載頑張るので、お互い頑張りましょう
さて、ことみの誕生日でしたか……忘れてました……あはは〜
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