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◆パチュリーの心中



「今日という今日は許さないわよ」

 毎度毎度、我が蔵書を勝手に持っていく魔女を壁に追い詰める。

「ま、待て。話せばわかる」

 ただならない雰囲気を感じたのか、流石の魔理沙も顔を引きつらせながらジリジリと後ろに下がりながら何か言っているが、もう我慢できない。

「古今東西、その台詞は死亡フラグで有名よ」
「貴女……誰?」

 魔理沙を追い詰めようとしていると、彼女の連れらしき人物が割って入って来る。

「助かったぜ、アリス」
「アリス?」
「そうさ。今日は同じ森の魔法使いの友人を紹介に来ただけなんだぜ」
「ふーん」

 魔理沙の魔法使いの友人とやらを、ジロジロと観察する。
 短めに切りそろえられた明るいブロンドに映える赤い髪止め。青と白の眩しいワンピース。
 そう、例えるなら西洋人形。そんな雰囲気だった。

「えぇと、初めまして。私、アリス・マーガトロイドって言うの。よろしくね」

 そう言って、黒白泥棒の知り合いだと言う魔法使い、アリス・マーガトロイドはにっこりと微笑んだ。
 それがアリスとの最初の出会いだった。
 最初は魔理沙の紹介と言う事もあり、さらに加速する蔵書の減少に頭を抱える事になると考えていたのだが、予想とは全く別の方向に転がっていった。
 魔理沙と違って無断で蔵書を持ち出したりすると言う事は無いし。
 図書館にはちゃんと形式を踏んで来訪する。壁を壊して進入したり、こっそりと忍び込むなんて事もしない。
 大抵は静かに読書をして、それでも読み終わらない場合は断りを入れて借りていく。
 本を汚したりもしないし。返却期限もキッチリ守ってくれる。
 時々、図書館を利用させて貰っているお礼にと。お菓子の差し入れがあったり、貴重な自身の蔵書を寄贈してくれたりと前例の魔法使いとは比べる事すら失礼なほどの良識を持った人物だった。
 レミリアや魔理沙。手のかかる友人ばかりに囲まれていた私にとってのアリスは自分の中の世界を変えるには十分な存在だった。
 いつの間にか憧れていて。いつしかその憧れはいつしか恋と呼ばれるような形にまで昇華していった……。


      ♪


 しかし、だ。
 そんなアリスと私のいつまでも続くと思われた蜜月は泥棒猫によって脆くも崩れ去ってしまった。

「アリス〜」
「ちょ、ちょっとレミィ。くっつかないでよ」

 今日も今日とて、我が図書館。しかも、私の目の前で仲の良さを見せつけられると、どうにも堪らない気持ちになってくる。
 最初の頃は一々割って入っていたものの、最近では諦めの境地に達して放置している。と言うか、面倒くさくなった。
 私の見えない所で恋人同士の営みをするのなら構わない。
 少しばかりレミィに嫉妬するかもしれないが、そのぐらいだ。以前の図書館での読書の日々に戻るだけ、なんてことはない。
 しかし、流石の私もほぼ毎日図書館にやって来て、目の前でイチャついて私の読書を邪魔するとはどういう了見だろうか!

「いい加減にしなさいよ。二人とも!」

 流石に耐え切れなくなり、机を叩いて立ち上がる。
 机の上に置いてあった本の山が衝撃で崩れて、絨毯に落ちるがそんな事はこの際はどうでもいい。

「何よ。パチェ突然大声を上げて、カルシウムが足りないんじゃないの?」
「わわわっ、急に離れないでよ――」

 私の大声にレミィはアリスから一旦、離れて白い目でこちらを見てくる。
 アリスは抱きついていたレミィがいなくなり、体勢を崩し、椅子から転げ落ちる。

「貴女達ねぇ……毎日、私の図書館に来てイチャイチャ。いい加減にしなさいよ!」
「私はただ読書に来てるだけなんだけど……レミィが――」
「私はアリスに会いに来てるだけよ」

 二人とも全く持って自覚がなく反省の様子が無い。
 その瞬間、頭の中で何かが切れた。多分、理性と呼ばれているモノだろう。

「少しは反省しなさいよ!貴女達は!」

 即時、スペスカードを宣言、発動。
 自分でもびっくりする位の速さで、手の中に火の玉を生み出す。

「こんな場所でロイヤルフレア!? 蔵書がどうなっても良いの!」
「いきなり、喧嘩を吹っかけるとは本当にカルシウムが足りてないわね。パチェ!」

 二人は慌てて立ち上がると、私の本気を見て戦闘体勢をとる。しかし、もう遅い。

「ねぇ、パチュリー落ち着いて。そんなものこんな所で使ったら、貴女の大事な図書館が――」
「私は十分落ち着いてるわよ。大丈夫。こんなことで傷つく程度の蔵書じゃないから……受け取ってね!!」

 自分が使用した中でも、一番の火力を込めたロイヤルフレアを振り下ろす。
 途端、図書館は大きな炎柱と閃光に包まれた。


      ♪


 あぁ、感情に任せて私は何て事をしてしまったんだ。
 思わず紅魔館を飛び出した後、湖畔の岩に腰掛けて自らの行いを後悔し、頭を抱える。
 アリスにはあぁは言ったもののいくら防壁を張っているとはいえ、自身の全力では蔵書もひとたまりも無いだろう。
 図書館がどうなったかも確認しないまま、勢いで飛び出したものの……これからどうしよう?
 今からノコノコと戻るのは体面が悪いし、何よりプライドが許さない。
 数日置いて、頭を冷やすにしてもどこか雨露を凌げる場所が必要だ。
 しかし、引きこもりがちな自分に頼れる場所など……無くもないか……。
 そう思い直し立ち上がると、数少ない友人の魔法使いの家を目指して大空へと飛び上がった。
 湖を離れ、しばらく空を飛んでいるとやがて眼下に緑が目立ち始める。
 幻想郷では魔法の森と呼ばれる森の上空を飛びながら、おぼろげな記憶を頼りに魔理沙の家を目指して高度を下げ、段々と失速させる。
 やがて、目当ての家を見つけると、地上に降りて家のドアを静かにノックする。
 ……しばらく待つが、家主の出迎えの足音は聞こえてこない。
 出かけているのかしら?
 当てが外れてしまい思わず舌打ちをしたくなってくる。
 他に誰を当たれば良いかしら? こんな風になるなら不精せずに交友を広げておくべきだったと頭を悩ませる。
 念の為に、もう一度。今度は少し強くノックをしてみる。

「はいはい、誰だ……って、パチュリーか珍しいな」

 ドアを叩いて少し待つと、魔理沙が顔を覗かせる。
 私の顔を見ると、意外そうな顔をする。

「何よ……私の図書館にはいつも来るのに私が家に来たらいけないの?」
「いや、そういう訳じゃないんだが……ま、いいや。何の用事かは知らないけどとりあえず、中に入ればいいじゃないか」
「……お邪魔します」

 魔理沙に招かれるままに家の中に入る。

「しかし、全く整理された形跡が無いわね……」

 乱雑に詰まれた本やマジックアイテムと思われる物が床に転がっているのを見て思わず呟く。
 ……もしかしたら、本当にゴミかもしれないけど。

「うーん。たまに整理するんだけどな」
「最後に整理したのはいつよ……」
「えーと、確か……半年前かな?」
「それは全然『たまに』じゃないじゃない」

 魔理沙の適当さ加減に呆れかえる。
 そんな事では、勝手に持っていかれた私の蔵書がどうなっているかなんて考えたくも無い。

「それはそうと、どうして私の家に来たんだ? 遂に本人から本の強制回収かなんかか?」

 部屋に案内されて、お茶を出した魔理沙が尋ねてくる。

「それをしたいのは山々だけれどね。今日はそんな事じゃないわ」

 反省の色が全く無い魔理沙はあっけらかんと尋ねて来る。

「じゃあ、一体どんな理由なんだ?」
「…………」

 実にくだらない理由で飛び出したのだ。話せるわけがない。
 それに、魔理沙になど話してしまったら、次の日には幻想郷中に広まってしまうだろう。

「話したくないのか。まぁ、それならそれでいいさ」

 幸いな事に魔理沙は深く追求はしてこない。
 こちらとしては好都合なのだが、いつもの魔理沙らしくないのが腑に落ちないけど。
 お茶を出し終えた魔理沙はこちらへの関心を失ったのか、先ほどまで読んでいたのであろう本を広げて読み始める。私もそれに習って、手近にあった本を手に取り、ページをめくる。
 読書を始めてどれくらいたっただろうか、コンコンッと物音が外から聞こえてくる。
 私が本から顔を上げると、魔理沙も同じく顔を上げていた。どうやら、空耳ではないらしい。
 私の時には気付かなかったくせに今回は一回で気付いたことに何か釈然としないものを感じる。

「お? 誰か来たみたいだぜ。なぁに、心配するな。すぐに戻ってくるさ」

 私は不安そうな顔をしていたらしい。魔理沙がニカッと笑いながら玄関へと向かう。

「……だから、それは死亡フラグだって」

 魔理沙には届くはずの無い言葉を一人ごちる。
 玄関の方から話し声が聞こえて、魔理沙が来客者を連れて戻ってくる。

「お迎えだぜ」



 魔理沙が戻ってくると、その後ろにレミィが姿を覗かせていた。

「やっぱり、此処にいたわね……」
「どうして場所が?」
「パチェの行き先なんか高が知れてるわよ」
「むぅ……」

 レミィの手の内で踊っていたのが少々気にいらない。

「訳は聞いたけど、突然暴れ出すなんてパチュリーらしくないな」
「色々事情があったのよ……」
「その事情により、アリスと小悪魔が図書館で大忙しなのよ」
「え?」
「パチェがいないと書庫の整理が終わらないって嘆いてるわ」
「ま、そういう訳だ。キッチリ仲直りしてこい」

 ここまで後押しされて、駄々をこねていては私がただの子供じゃないか。
 仕方無しに本を置いて、椅子から立ち上がった。


      ♪


「そうそう、一応言っておくけど……」

 魔理沙の家を出て、レミィの隣を飛びながら紅魔館へと向かっている。
 隣では日傘をくるくると回しながら機嫌の良さそうなレミィが何かを言おうとしている。

「何?」
「パチェのことも好きよ?」
「ぶっ……一体突然何を言い出すのよ!」
「あれ? 何かおかしな事を言ったかしら?」
「何を言いたいのかさっぱりだわ。どうやったら、そういう台詞が出てくるのよ!」

 レミィが私の顔を覗き込むように窺ったので、顔色を見られないようにそっぽを向く。

「んー。パチェは私がアリスにばっかり構っていたから怒っていたんじゃないの?」
「なっ……そんな訳があるわけないじゃない。大体、私が好きなのは――」

 思わず想いの人の名前を口走りそうになるが、寸でのところで言葉を止める。

「吸血鬼の私はどんな物でも自分の物にしておきたいの」
「な、何で私の意思は無視されるわけ!?」
「そんな些細な事はどうでも良いからパチェはこれからも私のパチェでいてね〜」
「どうでも良くないわよ! きゅ、急に抱きついて来ないで! バランスが!」

 不意打ちでレミィが抱き付いて来たので危うく空中でバランスを崩しかける。
 厄介な友人を持った事がここまで頭を悩まるとは思ってもみなかった。
 これからも、私の受難はまだまだ続きそうだ……。




◆掲載時の作品コメント
レミリアとアリスを見て、パチュリーはやきもち。
所構わず、いちゃつかれたら流石のパチェさんも怒るでしょう。
さて、パチュリーの明日はどっちだ!

(2011/4/1掲載)