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◆姉妹の仲

「……家先で何か物音がするわね」

 人形作りをしていると、庭先でなにやら物音がする。
 最初は妖精の悪戯かとも思ったが、それにしてはやけに騒がしい。流石に気になってきたので、ちょっと確認する為に外に出てみる。
 庭先に誰かが横たわっている影が見えたので恐る恐る近づいてみると、まだ幼い容姿をした金髪の少女が倒れている。

「ちょ、ちょっと大丈夫?」

 慌てて跪き声をかけてゆすってみるも、何の反応も無い。
 まさか、死んでるのか……。とも思ったがちゃんと息はしているのでそんな事はなさそうだ。
 流石に放っておくわけにもいかず、家の中に運び込む。この娘も妖怪、魔物の類だろうが、不思議な羽根の形をしている。
 七色の宝石のように輝く羽根は凄く幻想的に印象深く映った。
 いつ目を覚ましてもいいようにと、目の届くリビングのソファに寝かしつけておく。
 寝心地が悪くないと良いけど……。
 そんな事を考えながらも、先ほどまでの作業を再開すると、いつしか完全に没頭してしまって少女の事など頭から吹き飛んでしまっていた。

「ねぇ……」

 誰もいないはずの我が家でボソリと声が響いてびっくりして肩を震わせる。
 勢いよく声のした方向を振り向くと、なんてことはない先ほど運び込んだ少女が目を覚ましただけだった。

「何を驚いているの?」
「急に声をかけられたから……って、もう起き上がって大丈夫なの?」
「貴女が介抱してくれたの?」
「えっ……。まぁ、そうだけど……」
「ありがとうお姉ちゃん」

 嬉しそうな顔で私に向かって笑いかけてくれる。

「むー、魔理沙の家に行く途中に迷っちゃったのかー」
「あら? 貴女、魔理沙の知り合いなの?」
「お姉ちゃんも魔理沙の事を知ってるの?」
「一応、同じ森の同業者だからね」

 迷惑ばかりかけてくる同業者の顔を思い出し、苦笑いしながらも答える。

「そう言えば、名前を聞いていなかったわ。貴女の名前は?」
「私はフランドール! お姉様はフランって呼んでくれるわ。お姉ちゃんは?」
「私の名前はアリス。アリス・マーガトロイドって言うの。よろしくね、フランドール?」

 フランドールの背丈にあわせ、屈み込んで自己紹介をする。

「これからフランドールはどうする? 夜の森は危ないから泊まっていった方が……」
「心配しないでアリスお姉ちゃん私、結構強いんだよ。それに、もう少しで夜が開けそうだから」
「あら、もうそんな時間なの」

 そう言われて、窓の外を見ると空がうっすらと明るくなり始めているのが見える。

「お姉ちゃん、出口はどこかしら?」
「え? あっちだけど……あ、ちょっと。日が昇るまで待った方がッ!」

 外の景色に意識を向けていると、不意に尋ねられたので玄関を指差すと、フランドールは玄関に向かって
走り出した。

「じゃあ、また来るからね。アリスお姉ちゃん!」

 何かに急かされる様に駆け足で部屋を出て行く。

「ちょっと!」

 フランドールを後から慌てて追いかけるも、玄関では開け放たれたドアがゆれているだけで、
そこにフランの姿はなかった。
 外に出てみても、当然の事ながらフランドールの姿は無く少し明るくなってきながらも、夜明けの光に負けないように儚い星が光るだけだった。


      ♪


 フランドールとの出会いから、一週間が経ち彼女の事も日常の波に飲まれて忘れ去られようとしていた頃。
 いつもの様に人形作りに精を出していた時にふと、パチュリーの本を借りっぱなしにしていた事を思い出した。

「あぁ、でも今良い所なのよね……」

 人形作りの作業が区切りの悪い所だったので、作業を続ける。も、一度気になってしまっては全く作業に集中できない。

「……ふぅ、仕方が無いわね」

 先ほどから一向に進んでいない机の上を見渡すと諦めて息を吐く。

「さて、レミィに会いに行くついでに返しに行くとしましょうか」

 椅子から立ち上がって、背筋を伸ばしながら呟く。
 服の皺をチェックして目立った汚れが無い事を確認し、髪の形を整えて出かける準備を軽く済ませると、忘れずに借りた本を持って家を出る。
 魔法の森の空を飛び、湖を超え、紅魔館の前に降り立つ。
 いつもの如く、美鈴に挨拶をして門を開けてもらい敷地内へと足を踏み入れる。
 庭を抜け、紅魔館の扉を開くと、ホールには見慣れたレミィの姿と、先日のフランドールが
仲良く話しているのが見える。

「フランドールじゃない! どうして紅魔館なんかに?」
「あー、アリスお姉ちゃん!」

 ありえないと思っていた場所での再会に思わず声を漏らすと、私に気付いたフランドールは駆け寄り抱きついてくる。

「アリス。フランを知っているの?」

 レミィは抱きつくフランドールを無視しながら怪訝そうに私に尋ねてくる。

「以前、私の家先で倒れてたから介抱したのだけれど……そう言えば、お姉さんがいるって言ってたけど、
もしかして!」
「そう。フランは私の妹よ」
「でも、髪の色は違うし、羽根だって……」

 そこまで言いかけたところで、フランドールが顔を上げて無邪気に笑いかける。

「アリスお姉ちゃんとお姉様は知り合いだったんだね、凄い偶然だね!」
「知り合いというか……何というか……」

 なんとも言いにくい関係なので頬をかきながら、レミィに返答を任せようと視線を投げかけると
そっぽを向かれてしまう。
 そっぽを向きながらもチラリと見えるレミィの頬が少しばかり赤くなっているように見えるのは
気のせいではないだろう。

「アリスお姉ちゃん、熱でもあるの? 顔が赤いよ?」

 かくいう私も、こんな状態なのだから。


      ♪


「アリス。ちょっと……」

 部屋の中でフランドールに軽く人形劇を見せたりして遊んでいると、レミィから名前を呼ばれ、手招きをされる。

「ごめんね、フランドール。レミィがちょっと呼んでるからまた今度ね」
「えー」

 頬を膨らますフランドールに両手を合わせて謝ると、レミィに呼ばれるままに廊下へと抜け出す。

「一体どうしたの?」
「着いて来て……」
 それだけ言うと、レミィは廊下の先に向かって歩き出す。私はレミィの後ろを黙ってついていく。
 レミィは一度も振り向くことなく、行き先も教えてくれないまま歩みを進め続ける。が、段々と見覚えのある廊下になっていき、どこに向かっているのかが分かってくる。

「さ、入って」

 見覚えのある書斎の扉をレミィは開けて私に促す。
 私が応接用のソファに座るのを見てから、レミィは扉を閉めると珍しく扉の鍵を閉める。

「こんな所まで呼んで一体何の用かしら?」
「察しの良いアリスはわかってると思うけど、フランの事よ」

 相変わらずレミィの背格好に全く合わない大きな書斎の机に着くと、私の問いに答えてくれる。

「あの娘の事がどうかしたの?」
「あぁ見えてあの娘、力だけなら私よりも強いのよ」
「そうみたいね。レミィと同じような強い波動を感じるわ」
「今は力を抑えてるけど、一度スイッチが入ったフランは私でも止めるのに手を焼くわ。だから……」
「距離を置けって事?」
「そうよ、アリス。貴方の事が心配なの」

 真剣な面持ちで言葉を紡いでくれているが、私は……。

「レミィの気持ちもわかるけど、私は慕ってくる娘を無下にはできないわ」
「……アリス」
「大丈夫。私は命を落とすようなヘマはしないわ」
「……そう」

 私の瞳をじっと見ると、説得を諦めたかの様に頭を振ると、くるりと背を向ける。

「もういいかしら?」
「えぇ、用件はそれだけよ」

 こちらを振り返ろうともせずに、簡潔な言葉を返す。
 部屋を出るときにチラリと見たそんなレミィの後姿はなんだか寂しそうだった。


      ♪


「って、事があったのよ。信じられる?」
「まぁ、レミィだって色々考えてるのよ」

 当初の予定である本の返却をするついでに先ほどのレミィの様子をパチュリーに話すと、
いつもの調子で答えが返ってくる。

「それも、わざわざ部屋に呼び出すなんて……」
「それほど貴方の身を案じているのでしょ」
「でも、いつものレミィらしくない……」

 今日のレミィの態度が妙だった理由を考え込む。

「まぁ、それだけじゃなくて嫉妬も混じっているんだろうけど……」
「ん? 何か言ったかしら?」

 少し考え込んでいたので、パチュリーの言葉を聞き逃してしまったので、聞き返す。

「いや、何も。ところで、今日の予定はこれで終わり?」
「一通りは」
「そう……なら、ゆっくりしていくなり。帰るなり好きにするといいわ」

 それだけ言うと、読んでいた本に視線を落とす。

「うーん。今日のところは帰らせてもらうわ。研究の途中で抜けてきてるし」
「そう……では、また今度」

 パチュリーは少し寂しそうににしながらも、本から顔を上げて別れの挨拶をする
 図書館から出ると、紅魔館出口までの廊下を歩きながら考える。
 いつもは私を振り回して無邪気な顔を見せているのにあんなに塩らしくて真剣なレミィの顔を見るなんて珍しい。
 そんな事を考えながら廊下を歩いていると、さっきまでフランドールと一緒にいた部屋の前を通ることに気付く。
 その部屋の扉が少し開いているので、チラリと覗き込むとフランドールが椅子に座ってボーっとしているのが見える。

「何をしてるの? フランドール?」
「あ、アリスお姉ちゃん」

 声をかけると、顔を上げて笑顔で私の方を見てくる。

「元気がなさそうね……あんなに遊んだから疲れた?」
「えーと、そうじゃなくて……」
「?」

 ドアを閉めて部屋の中に入り傍まで寄ると、何か言いたそうなフランドールの顔を覗き込む。

「何か話したい事があるんでしょう?」
「やっぱり、アリスお姉ちゃんにはわかるんだね……」 

 元気なさげに羽をシュンと垂らして俯く。

「お姉様の元気が無いのは私の所為なのかなぁ、と思って」

 そんなフランドールを抱き上げ、フランドールの代わりに椅子に座ると、そのまま自分の膝の上に乗せて抱きしめる。



「わ、わ、わわっ、アリスお姉ちゃん。突然何!?」
「いい? フランドール。レミィは貴女の事を一番大事に思っているの。そんな事言っちゃ駄目よ」
「でも……」

 何か言いたげに膝の上のフランドールが振り向いて、私を見る。

「今度、一緒に遊びたいと誘って御覧なさい。多分、レミィは一緒に遊んでくれるわよ」
「本当?」
「本当よ」
「本当に本当?」
「本当よ」
「アリスお姉ちゃんも一緒に遊んでくれる?」
「えぇ、勿論」

 一生懸命になっているフランドールの様子に微笑みながらも、丁寧に答えてあげる。

「私もアリスお姉ちゃんが気に入っちゃった!」
「えっ? えっ?」

 何かおかしな方向に話が進んでいるような気がする。
「私の傍にずっといてくれると嬉しいなぁ」
「ちょ、ちょっと待ってね」

 実質の愛の告白めいた事を言われて頭が混乱してくる。少し前に姉にも同じような事を
言われたばかりなのだが……。

「顔真っ赤にしちゃって、アリスお姉ちゃんは可愛いなぁ」

 小悪魔めいた発言にレミィの面影がある。
 最初は似てはいないと思っていたが、やっぱり二人は姉妹だという事を感じる。

「レミ――抑え――」
「いえ止め――パ――」

 なにやら扉の外が騒がしい。もしかして……。

「ちょっと待ちなさい、フラン!」

 レミィが扉を勢いよく開けて飛び込んでくる。後ろには、呆れた様子のパチュリーの姿も見える。

「私のアリスに手を出すのは、フランでさえ譲れないわ!」
「あー、お姉様。盗み聞きしてたでしょ」
「私のアリスが心配だったからよ!」
「いくらお姉さまであろうと、アリスお姉ちゃんの膝の上は絶対に譲らないからね!」
「私だってしてもらった事ないのに、どうしてフランには!!」
「まぁ、まぁ、二人とも落ち着いて……」
「後腐れなく、アリスに決めて貰いましょう」
「お姉ちゃんに決めて貰えば私も納得できるからね」

 目の前の視界に二人の顔が一杯になる。

「アリス。私の隣に居てくれるって言ったわよね?」
「私と一緒に遊んでくれるんだよね? アリスお姉ちゃん?」
「え、えーと……」

 二人に囲まれて反応に困る。
 どちらか片方を立てると、片方が納得しないだろう。
 最悪、止められる者がいない姉妹喧嘩が始まる可能性がある。
 上手く二人を宥めなくてはいけないのだが、パチュリーが割って入ってこない所を見ると助け舟は
あまり期待できそうも無い。
 幻想郷の未来は私にかかっている…………のかもしれない……前途多難だ……。


◆掲載時の作品コメント
アリスはフランの存在を知らなかったという下地のもと作ってみました。
なつくフラン。嫉妬するレミリア。たじろぐアリスの構図。
幻想郷最凶の姉妹喧嘩の発端はアリス……なのか?

◆後書き
以上、既刊『仲直りのしるし』3つのSSをお届けいたしました。
大分昔に書いたものですね。
今じゃ、アリスがレミリアのことレミィと呼ばなくなってたりもしますが、仕様です(キリッ

ご意見ご感想はいつでもどうぞ!

(2011/4/1掲載)