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◆人形遣いと吸血鬼の出会い


 湖の畔に建つ紅魔館。
 その館の地下にある図書館に入り浸りになり始めていたある日。
 普段通りに図書館の扉を開けて中に入ると、相変わらず薄暗い図書館に本棚がズラリと並んでいる。
 その光景は魔法使いの私にとってまさに宝の山で、何度見ても心を躍らせるものがある。
 毎度、無断に本を持ち出して行く、魔理沙の気持ちもわからなくは無い。
 最も――こんな事を言ったら、無断持ち出しで心労を抱える図書館の主に凄い勢いで怒られてしまうだろうが。
 いつも通り本棚を抜けると、いつもの机と椅子。そして、この図書館の主の姿が視界に入って来る。

「パチュリ〜。今日もお邪魔していいかしら?」
「何よ。また来たの? 物好きね……」
 いつも通り挨拶をすると、パチュリーは面倒臭そうに本から顔を上げてチラリと私の顔を見る。
「好きにすれば……」
「えーと、私は歓迎されてるのかしら?」
 判断しづらい応対に苦笑いを浮かべてしまう。
「あんな事言ってますけど、アリスさんが来てくれるだけでパチュリー様は嬉しいんですよ。先程までもアリスさんが来るまではそわそわと……」
 そんな様子を見ていたのか、本棚の影からひょっこりと顔を出した小悪魔がボソリと意外な発言をしていく。
「小悪魔ッ!」
「さて、私は仕事が残ってますので〜」
 珍しくパチュリーが声を荒げると、小悪魔はそそくさと再び本棚の影へと姿を消してしまう。

 二人きりになると沈黙が場を支配する。
 パチュリーからは何も言ってくれないので非常に気まずい。
「パチュリー……」
「何?」
「本当なの?」
「真に受けないでよ……」
 パチュリーは不機嫌そうに再び本に視線を落として、パチュリーの顔が本によって隠れる。
 頬が少し赤くなっているように見えたのは私の気のせいだったのかしら?

 パチュリーと話していると、本棚の向こうから小悪魔とは別の靴音がカツカツと聞こえて、こちらに段々と近付いてくる。
「パチェ〜。ちょっと聞きたい事が……」
「あら? レミィ。ここにまで来るなんて珍しい……」
 小悪魔と入れ違いに現れたのは、この館の主、レミリア・スカーレットだった。
「いや、ちょっと調べたい事が……あら、珍しいお客さんがいるじゃない」
 レミリアは私を視線に捉えると、獲物を見つけた鷹の様な視線を送ってくる。
 その視線は圧倒的な力の差を嫌でも理解させられる。
 恐怖が体を支配して、膝がガクガクと震えてくる。

「いつだかの私の落胆具合を思い知らせる時が……」 
「待ちなさい!!」
「何よ、パチェ。これからお楽しみタイムなのに……」
「私の来客者に手を出す事はいくら貴女とはいえ、許す事はできないわ」
 そう言って、パチュリーは私に背を向け、レミリアに対面するように割って入ってくれる。
「パチェにしてはやけにムキになるじゃない? 本以外には興味が無かったんじゃないかしら?」
「何を馬鹿な事を。より多くの知識を得る為には、友人付き合いも必要なのよ!」
「ふーん……」

 レミリアに対して、ひるみもせずに物言いをするパチュリーと比べると、私はどうだ?
 ビクビクと体を震わせて成り行きを見守る事しかできない。なんとも、情けなくなってくる。
「何かおかしな事でも言ったかしら?」
 レミリアの態度が気に入らないのか、パチュリーは眉をひそめる。
「まさか……パチェ。この人形遣いに……?」
「おっと、それ以上話すとお互いの為にならないと思うわよ。レミィ?」
「怖い怖い。パチェを本気で怒らせると後が怖いから、ここまでにしておきましょうか」
 パチュリーの表情は窺う事はできないが、チラリと聞こえてきた口調の強さから、付き合いの浅い私にも怒っている事がわかる。

「そう……わかればいいのよ。わかれば」
「うん。良くわかったわ。という事で、アリスを借りてくわね」
「あ、ちょっと! 全然、わかってないじゃないの!」
「え? え? エーッ!?」
 どういう脈絡なのか理解もできないまま、レミリアに腕を掴まれ、その小さな体からは想像できない凄い力で引っ張られ有無を言わさず、図書館から連れ出される。


     ♪


 レミリアに強引に図書館から連れ出され、訳もわからずある部屋の前まで連れて来られる。
 問答無用で引っ張られた腕の骨と間接が妙に痛いのだが、あまり文句は言っていられる状態でもないみたい。

「ささっ、ここよ」
 レミリアに促されるまま、ゴクリと喉を鳴らし緊張しつつもドアを開くと、まず目についたのは、部屋の中央奥に置かれた大きな机とその後ろにある分厚い本が納められた本棚。
 生憎、机の後ろに並べられた本は、遠すぎて背表紙のタイトルは見えないが。
 そして、応接用と思われる小さめのテーブルを挟みこむように二つのソファがセットで置かれている。

「じゃ、取りあえずこのソファに座って」
 さらにレミリアに促されて、ソファにおずおずと座る。
 それを見届けたレミリアは私の正面のソファに体を沈める。
 部屋の家具……特にあの机を見る限り、きっと書斎なのであろう。
 しかし、その書斎用の机もレミリアの体格を考えると、本当に使っているのだろうか? と疑問に思ってしまうぐらいの大きさにギャップを感じてしまう。
「さて、気分はいかが……って、あんまり良さそうじゃないわね」

 多少落ち着きを取り戻したものの、まだ顔に出ているらしい動揺はレミリアにはバレバレのようだ。
「そんなに緊張しなくても、獲って食べたりは…………あー、するかも」
 不穏当な発言を聞いて、体をビクリと震わせてしまう。
 我ながら情けないと思うが、心の底からどうやっても敵わない。そう改めて理解してしまうともう指一本動かせそうも無い。
 そんな様子を見て何を言っても逆効果と感じたのか、レミリアは本題に入ろうとソファに座りなおす。

「子鬼の宴会騒ぎの時に……アンタは咲夜、パチェを倒して、いよいよ私の出番かと思って楽しみに待ってたのだけど、途中で帰ってしまって残念だったわ」
 本当に残念そうに目を瞑って、ため息を吐く。
「今日はその理由を詳しく聞かせて欲しいと思ったのだけれど――」
 そう言いながらソファから立ち上がり、何故か机の方へと向かっていく。
 私はその不思議な行動に小首をかしげる。
 レミリアが机の横に立つと不釣合いな大きさの机にやはり違和感を感じてしまう。
「今はとりあえず、お茶にしましょうか」
 見た目の年齢相応の笑顔を浮かべると、机に置いてあったらしいベルを手に取り、チリンと鳴らした。

「……はぁ」
 そんな唐突な提案に気の抜けたような返事をしていると、そのベルの音を待っていたかのような速さでメイドが茶器を持ってきて、私の目の前のテーブルに置いて下がる。
「メイドが淹れるんじゃないのかしら?」
「普段はそうなんだけどね……今回は私が淹れるわよ」
「え?」
「何か不満でもあるのかしら?」
「いやいや、そんなことはにゃいでしゅよ?」
「噛んでるわよ」
 私の態度がそんなに可笑しいのか、コロコロとレミリアは笑う。
「むぅ……」
 自分の立場はわかっているものの、微妙に面白くないのでソファにゆっくりと体を沈める。
 少し気が緩んだのか、一気に緊張のし過ぎで溜まった疲れがやって来る。
 もたれかかって気づいたが、ソファにしてもふかふかとしていて、いかにも高そう……自分の家のソファとは大違いだ。

 そんな私をレミリアは一瞥して、お茶を淹れる準備を始める。
 レミリアは意外にも手馴れた手つきで、湯気が出ているケトルのお湯をポットに注ぎ暖める。
 ポットが温まったのを確認したレミリアは、用意してあった容器にポットのお湯を捨て、茶葉を入れて再びお湯を注ぎ込む。
 茶葉を蒸らす間、お互い言葉を交わさずに黙り込む。
 ふんわりと漂ってくる、茶葉の香り。独特の沈黙がもたらす感覚はお茶を入れる時の楽しみの一つでもある。
「さて、そろそろいいかしら……」
 レミリアはそう呟くと、茶漉しを使いもう一つのポットに紅茶を移す。
「はい。どうぞ」
 ポットからカップに紅茶を注ぎ、ゆっくりと私の前にカップを置く。
「さささっ、飲んで飲んで」
「えぇと……」
「私の淹れたお茶が飲めないとでも?」
「いや! そんな事は無いわよ! ただ、予想以上に手馴れた手つきだったからつい見とれちゃって」
 機嫌の良さそうなレミリアの顔が一瞬陰る。そんな表情の変化に慌ててフォローに入る。

「ふふっ……。それは褒め言葉として受け取っていいのかしら?」
「も、勿論!」
「では、召し上がれ」
「い、いただきます……」
 勧められるままに紅茶のカップを手に取り、ゆっくりと口をつける。
 香りも味も申し分ない。結構……。
「……美味しい」
「そう言って貰えると、嬉しいわね」
 思わず素直な感想をそのまま声に出してしまう。
 それを聞いたレミリアはホッと安堵の息を漏らして、顔を綻ばせる。
「さて、話に戻るわね。子鬼の異変の時に最後に子鬼を混ぜて宴会を開いたわよね?」
「えぇ、なんかこれで最後だから云々と言って、魔理沙が……」
 美味しい紅茶を飲んだ後だからだろうか? さっきまでとは打って変わって、緊張を解いて話す事ができる。


「そう、その時よ。あなたの姿を初めて意識して見たのは」
「え?」
「聞けば魔族の娘らしいじゃない?」
「そうだけど……」
「純粋な魔族。それも、魔法使いの血なんて美味しそうだと思わない?」
 今まで上機嫌そうに話していたレミリアの声のトーンが一気に下がる。
 それまでの表情からは窺えないような、危険を感じ取り逃げ出そうと、ソファから立ち上がろうと行動を起こしたが、力が入らずにそのまま床に倒れてしまう。
「あ…………れ…………?」
「軽い睡眠薬みたいなものよ。少し意識が朦朧となって、夢の中に居るみたいに気持ちよくなるだけ」
 レミリアはそう言いながら、倒れた私の元にツカツカと歩み寄る。
「薬を……盛るなんて……やって……くれ……るわ……ね……」
「貴女に興味を持った。私にとっては、それだけで十分な理由になるわ。私は欲深いの。欲しいものは全部手に入れてみせるわ」
 倒れている私を抱き起こして、レミリアの紅い瞳が私の目をじっと見つめる。
「さっ、私の目をよーく見てね」
 見てはダメだと頭では理解しているのだが、自分の体では無いかのように言われるがまま彼女の瞳の奥をじっと見つめてしてしまう。
 レミリアの瞳は紅く紅く透き通っていて、とても魅力的で綺麗な……。



「そこまでよ!」
 部屋のドアが勢いよく開けられる音がして、レミリアが入り口へと振り向く。
 すると、さっきまでの夢見心地な気分は吹き飛んで、頭の中の霧が晴れていく。
 それでも、体の気だるい感じはまだ抜けていないので、自分の体を支えきれずに床に倒れこむ。
「パチェ!? 覗き見とはずいぶん趣味が悪いじゃない?」
「人のモノを堂々と勝手に持っていくどこかの黒白ネズミみたいなレミィよりはマシよ!」
 パチュリーは話しながらも、水の塊を作り出し、レミリア目掛けて撃ち出す。
「危ないわね! 吸血鬼に水なんて、当たったらどうするつもり!?」
「当てようとしてるんだから当然でしょ!」 

 レミリアが飛びのいた隙をついて、パチュリーが駆け寄って抱き起こしてくれる。
「アリス、大丈夫? しっかりして!」
「ううっ……まだちょっとフラフラするけど大丈夫……」
「魅了の術まで使って、一体何をする気だったのかしら!」
「そんなのパチェには関係ないことでしょう?」
「また減らず口を……」
 怒りで肩を震わせるパチュリーなんて、普段の様子からは全く想像がつかないので、レミリアよりも底の知れない恐ろしさを感じる。

「さて、邪魔が入ったけど、一応挨拶は済んだから、今日はここまでとしておきましょうか……」
「ちょっと待ちなさいよ! ちゃんと説明を……」
 パチュリーは呼び止めようとするが、レミリアはくるりと背中を見せて、そのまま部屋を出て行ってしまう。
「全く……レミィは……」
「……パチュリー」
「あ、アリス。本当に大丈夫?」
「そこまで心配されなくても、何もされてないわよ……」
「そう……」
 パチュリーは本当に良かったというような表情をして、ため息をつく。
 そんなパチュリーはいつもの無愛想なパチュリーからは想像できなくて何だか面白い。

「さて、私はもう帰ろうかしら……」
 いつの間にか体の気だるい感じは抜け、自力で立ち上がることが出来る。
 盛られた薬は効果が即効の代わりに、持続力が無かったのかしらね……。
「無理はダメよ。図書館で安静していきなさい! これは命令よ」
「でも、もうホラこの通り大丈夫だし……」
 心配をしてくれる彼女の前で軽く跳ねて、大丈夫だという事をアピールしてみる。
「油断は禁物よ! 後、さっきレミィに何をされたのか詳しく話して貰うわよ」
「わかったわ……とりあえず、続きは図書館でね」
「ちょっと待ちなさいよ!」
 そう言いながら、先に部屋の外に出ようとすると、パチュリーも続けて立ち上がる。
 珍しく慌てた声を上げながら、私を追いかけるパチュリーの声を背中に聞きながら歩き続ける。
 でも、本当に綺麗な紅い瞳だったわね……。
 何かが変わり始めるような予感。
 そんな新たな風が吹き始める。そんな気がしたのだった。




◆後書き
基本的に原版からほぼそのままの掲載になります。
誤字や言葉の言い回し等、多少直したところはありますが……。
読みやすいように少しだけ文章の間に改行を入れてみたのですが、いかがでしょうか?
初めての試みですので、もっとこうしたら読みやすいのに……というような意見も募集しています。

さて、本文の方のコメントでも。
アリスとレミリアの出会いの形を模索したらこのような感じになりました。
本気を出せない人形遣いと気まぐれで子供っぽい吸血鬼の出会いはこんな感じ。
そう考えて、読んで貰えると幸いです。

これから冬コミまでに1週間に一回ずつ更新していきますので、次回をお楽しみに!
(2008年11月22日)

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