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 つれづれなるままに ひぐらし――

 そんな言葉が似合うような、そんな日々だ……

 いつものごとく、誰が言い出したわけでもなく、放課後の演劇部部室(仮)にいつものメンバーが集まってくる。
 古河、藤林、ことみの三人が勝手においしいボケを繰り出し、そのボケに杏が片っ端からツッコミを入れるという見慣れた風景が今も目の前で繰り広げられている。
 そんな様子を俺は窓際にの椅子に座りながら、ずっと眺めている。

 俺はそっと目をつぶる。
 こんなどこにでもありそうでどこにも無い時間を噛み締めるように……。




Tomorrow is another day




  ボカッ!

「がはっ!」

 突然、頭に走った衝撃に目を開ける。

「なっ、なんだ?!」

「なんだ!? じゃないわよ! 何、一人で窓際のおじいちゃんしてるのよ!」

「なっ、杏! いきなり何しやがる!」

 目をつぶって自分の世界に浸っていた俺を現実へと引き戻したのは杏の手に握られている雑誌であろう。
 見た目は辞書に比べれば薄い部類の雑誌を丸めて叩かれただけだから、あまりダメージは無いが……。
 え〜と、雑誌の名前は……月刊NewType? ナニそれ?

「人がまったりしてるところをぶっ叩くとは、何の用だ?」

 ひとまずは落ち着き払って、杏に用件を尋ねる。
 少し前なら、こんな時は不機嫌そうな声を上げたものだが、丸くなったな俺も……。
 心の中で密かにことみとの出会いに感謝する。

  ボカッ!

「何、悟りきった顔をしてんのよ!」

 再び自分の世界に入ってしまったらしく、またもや、杏にブッ叩かれる。

「何度も何度も叩くなよ……で? 一体何の用なんだ?」

「アレよ」

 杏はくいくい、と自身の後ろを指差す。
 そこでは……。

「なんでやねん、なんでやねん―――」

「だんご、だんご――――」

「え〜と、今日の運勢はですね……」

 ことみは一人で壁に向かってのツッコミの素振り、古河はご機嫌に団子大家族の歌を歌い、藤林は最近自分で買ったらしいタロットで占いをしているという、とてもシュールな光景が繰り広げられていた。

「………少し尋ねていいか?」

「何?」

「どういう過程でこうなった?」

「さあ?気づいたらこんな風になってたのよ。あたし一人では無理だわ」

「「……………はぁ」」

 強烈なボケ三人組に囲まれたツッコミ役の俺たちは二人で同時にため息をついた。



 ………それから、ことみ・古河・藤林の三人の暴走を止めるのに要した時間……約3分。
 ボケオンリーサークルのボケっぷりも、凄みが増してきたようで、俺と杏でも段々と抑えきれなくなってきた。

「いい、ことみ?今日は私の秘伝のツッコミをマスターするのよ!」

「頑張るの」

「ことみちゃん、頑張りましょう」

「ありがとうなの」

 落ち着いたとたんに杏とことみの漫才講座が始まった。
 それを古河が応援している。

「お笑い界最強のツッコミになるのよ!!」

「はいなの。杏ちゃん」

 いや、だから、天然ボケにツッコミを教えるのは無駄だって……。
 人には不向きがあると分からないのか?
 この頃は杏も暴走してきたような気がするぞ……。

「何? 朋也。何か言いたい事でもある?」

「いや、何も…」

 すっ、鋭い。
 乙女の勘はダテじゃないという事か……。
 乙女、の部分に引っかかりを感じるが…。

「朋也、何か失礼なこと考えてるんじゃないでしょうね」

「いや、何も!」

「そう、それならいいけど……次、変なこと考えてるようなら。容赦なく殺るわよ」

「はっ、はい!」

 なんだか今、やるの部分におかしなプレッシャーを感じたんだが…。
 今日の前でおかしな考えを持つのはやめよう、うん。

「じゃあ、ことみ! 始めるわよ!!」

「はいなの」

 それから普段通りに杏による特訓が始まったが、ことみにツッコミの概念が理解できるはずもなく、いつも通りに空振りに終わった。


 ……………………。
 …………。
 ……そんなこんなで部室の外は茜色に染まっていき、いまだ賑やかな部室にも影が落ちてきた。


「じゃあ、今日はこれまで」

「ありがとうございましたなの。杏ちゃん」

 杏の真剣なのか真剣じゃないのか良く分からない講釈の終了に頭を下げることみ。

「ことみ! このようではお笑い界のトップは取れないわよ!」

「残念なの…」

「そこまで甘い世界じゃないの! そこは最初の2話はラブラブの学園生活、それ以降最終回まで修羅場が続くとあるアニメのように厳しい世界なのよ!!」

「頑張って、朋也くんと夫婦漫才を目指すの」

「よし! その意気よ、ことみ!」

「その意気です」

「頑張ってください」

 師弟関係になってきたことみと杏の語り合いに拍手するギャラリーこと、古河と藤林。
 ちなみに俺はその講釈の間、暇のあまりに寝ていたが…。
 そもそも俺には芸人になる気はさらさら無いのだが…。



 夕暮れの中、五つの影法師が帰り道で踊る。
 こんな日常がいつまでも続くわけではないのだろうけど、こんなときがいつまでも続いて欲しいと願うようになったのは、俺自身が変わったからなんだろう。

 とりとめの無い会話を続けていくうちにいつもの分かれ道に差し掛かる。

「じゃあね、ことみ」

「またです、ことみちゃん」

「さよならです、ことみちゃん」

「バイバイなの。杏ちゃん、椋ちゃん、渚ちゃん」

 普段通りにことみが三人に挨拶を交わす。
 俺はもちろんことみを家まで送るから、さよならはしないがな!

「朋也くん、ちゃんとみんなにお別れしなきゃだめなの」

「えっ? あっ、ああ…」

 何も言わずにただつっ立っていたらことみに釘をさされてしまう。
 俺って、もしかしてことみの尻に敷かれてる?
 あっ!杏のヤツ藤林の後ろで笑ってやがる。……にゃろー。

「じゃあな…」

 ことみに言われて気まずく、手を上げる。

「はい、また…」

「岡崎君、また明日です」

「くくくくっ、またね、朋也。ぶっ」

 杏のヤツ、まだ笑ってやがる。そこまでおかしいかよ!
 屈辱だ…。

「さて、行くか? ことみ」

「そうするの」

 三人がそれぞれの家路に帰っていく後姿を見送ってから、俺達も家路につく。

「朋也くん…」

「なんだ? ことみ」

 三人と別れ無言でことみの家まで歩いていたが、突然、ことみが口を開いた。

「みんなとずっとこういう風にしていたいの」

「それはどういう意味だ?」

「何時までも、こんな日常が続くわけはないと分かってるけど、学校を卒業してもこんな関係が続くといいなって思うの」

 隣を歩くことみの顔を見るとなんだか寂しげな顔をしているな……。
 仕方ないな…少し恥ずかしい気もするが…。

「なっ、とっ、朋也くん?!」

 珍しくことみが驚いて大きな声を上げる。なんだか新鮮だな…。
 ちなみに、今は道の真ん中で俺はことみを抱きしめている。
 周りに人がいないのは分かっているが、それでも、ことみの体温を感じている事と人に見られているかもしれないという、二つの意味で緊張してきた。

「大丈夫だよ、ことみ。杏達は学校を卒業したって、ことみの考えるような悪い事にはならないよ。普段のあいつらを見ていれば分かるだろ?」

 俺はことみを抱きしめつつそう耳元で囁いて、頭を撫でてやる。

「……分かったの。朋也くんがそう言うならきっと間違いないの」

「そうさ」

「杏ちゃん達は目の前から急に消えていったりはしないの」

「そうだな」

 もう大丈夫だろうと思い、そっと、ことみから離れる。

「あっ……」

 ことみから残念そうな小さな声が聞こえたのは、俺が自惚れている訳ではないだろう…。

「さっ、ことみ。帰ろうか!」

「はいなの!」

 そんなやり取りをして、ことみと俺は夕暮れの道を歩いていった。





―――そんなこんなで次の日

  ザァーーーー

 今日はあいにくと雨。
 折角の土曜日だから、ことみとどこかに出かけようかとも思ったが、この天気では無理かな?
 まぁ、梅雨時なんてこんなものか……。
 黒い雲が頭上を支配し、雨が結構な勢いで降り注いでいる。
 そのおかげで少し視界が悪くなっている。

 俺は傘をさして、いつもの場所でことみと待ち合わせ……。
 今日は珍しく俺が先に着いてしまった……流れていく、傘を差した同じ制服を着た人達を眺めながら待つ。

「おはよ〜、朋也〜」

「おはようございます。岡崎君」

「おう」

 後ろを振り向くと藤林姉妹だ。
 同じ薄い青色の傘を差している。
 さすが双子の姉妹だ。意図的に同じにしているのか?
 いつも一緒にいる雰囲気があるから、なんだか百合の――。

「ん?!」

  ブン!!!

 妙な感覚が本能に呼びかけ半歩ずれると、顔の真横を何かが空を切った音がする。
 後ろを振り向くと良く分からない厚い本が水溜りに落ちている。
 あっ、危ねぇ〜。

「昨日言ったわよね〜、次は無いって」

「さっ、さあ? そもそも俺の考えてることなんて分かるのか?」

「私の勘がそう告げたから!」

 いっ、言い切りやがった……。
 しかも、とっても理不尽な理由だ。

「おはようなの、朋也くん、杏ちゃん、椋ちゃん」

「おっ、おはよう。ことみ」

 話をごまかす為に待ち合わせにやってきたことみに早速話しかける。
 ナイスタイミングだ!ことみ!!

「おはよう、ことみちゃん」

「おはよう、ことみ…………チッ」

 舌打ちかよ……。

「あっ、皆さん。おはようございます」

 ことみとの朝の挨拶の間に後ろから古河がやってきて、結局いつものメンバーが揃ってしまう。
 いつものメンバーでいつもの会話をしながら、学校へと行く。
 雨が降っていようが、いつもと変わらない光景だった。


 学校に着き、自分のクラスの前でことみ、杏、古河と別れ、藤林とともに教室へと入る。

「おっ?」

 俺の席の隣にキングオブヘタレの金髪馬鹿が珍しくこの時間に学校に来ていた。

 ……まぁ、そんなことどうでも良いが。

 その心の声に忠実に従い、声もかけずに自分の席に鞄を置き、席に座る。

「……………」

「ねぇ、岡崎」

「……………」

「岡崎ってば〜」

 あえて言おう! キモイと!!

「最近、岡崎って付き合い悪いよね」

 そりゃ、いつもことみ達といるからな。

「女ができてここまで親友が変わるとは思わなかったよ……」

「ちょっと待て、お前、俺の親友だったつもりか?」

 なかなか聞き捨てならない、セリフが聞こえたので訂正を入れる。

「そりゃ、ヒドイよ! 岡崎!」

「朋也の言ってることの方が正しいんじゃない?」

「きょ、杏」

 春原は第三者、杏の登場にビビリまくる。
 とてつもなく情けない姿だが、今までの仕打ちを体が覚えているのだろう。

「杏。何しに来たんだ?」

「椋にお弁当渡しに来たのよ。あの娘、今朝、テーブルの上に忘れて行ったのを私が渡すの忘れててさー」

「へ〜、それでもう渡したのか?」

「渡したわよ。そしたら、珍しい光景を見たから話しかけたわけ」

「どんな?」

「陽平がこの時間に学校いる!」

 ドーン! と効果音がつくくらいの言い切りようだ。

「なんだか酷い事言ってません?」

 春原が顔を強張らせて反論するが……。

「「いや、全然」」

 俺と杏のツッコミがハモった。

「十分、酷いっス」

 春原が涙する。

「そうか、春原がこんな早くに学校にいるから雨が降ったんだ」

「梅雨時だからでしょ!!」

「ヌルいわね朋也。陽平の影響力がそれだけで住むと思うの? 地球の温暖化が進むのも今やっているガンダムの内容が酷いのも全部陽平のせいよ」

「そうだな、地球が丸いのも大抵のノベルゲームの発売日が延期するのも春原のせいだな」

「かなり無茶苦茶な事言ってますよねー!! 僕を弄ってそんなに面白いっすか?!」

「だいぶ、面白いぞ」

「少なくとも、つまらなくは無いわね」

「ぐわっ〜〜〜ん。このツッコミコンビがーーー!!」

 春原は涙しながら、教室から飛び出した。
 やはり、ヘタレだな。うん。

「あっ〜、面白かった。じゃっ、朋也。また、放課後」

「おう」

「授業真面目に受けるのよ〜」

「努力はしよう」

「あっそ、じゃあね〜」

 そう言って、教室を出る前に藤林と二言三言話して、自分の教室へと帰っていった。



――――そして、放課後の演劇部部室(仮)。

「あ〜あ、なんで雨なんて降るかなぁ〜。折角の土曜日だからどこかに繰り出そうかと思ったのに」

「だな」


 いつもの部室にいつものメンバーが集まった中で杏がぼやく。
 その点に関しては、今朝、俺も思ったことなので相槌を打つ。

「朋也の奢りで」

「オイ」

「雨が降ると、ど〜もやる気がしないのよね〜。どうも何かをしようとする気が起きなくなるのよ。雨なんか降らなくていいのよー!」

「でも、お姉ちゃん。今は6月なんですし……」

 暴走し始めようとする姉を妹がなだめる。

「でも、雨が降ってくると、なんだかワクワクしてきませんか?」

「……なんとも、渚らしい意見ね。わからなくはないけどね」

「同感だ」

「雨ですか……」

 藤林はそう呟いて、窓の外に目を向けた。
 その視線の先には暗い雲が広がってるだけ……。

「雨は―――」

「えっ?」

 今まで口を閉ざしていた、ことみが突然、口を開き全員の視線が集まる。

「大気中の水蒸気が高所で凝結して、水滴となって地上に落ちるもののことを雨というの。雨のもとになる雲をつくっている上昇気流の起こり方によって色々と雨雲の名前が変わるの。日本の平均年降水量は2000mmで――」

「だー! ウンチクネタはどーでもいいのよ!!」

 久しぶりにウンチクを語りだしたことみを杏がツッコむ。

「……こんな所でこんな事やっても仕方無いから、今日のとこはもう帰るか?」

「その意見には賛成ね……さっ、みんな帰るわよ!」

「はいなの」

「わかったよ、お姉ちゃん」

「わかりました」

 そんなこんなで本日の部活動? はそれにてお開きとなった。

 外は相変わらず雨が降り続けている。
 朝より雨が少し強くなったような印象を受けるが……。

「じゃ」

「ばいばいなの」

「じゃあね〜」

「また来週」

「さよならです」

 いつもの分かれ道に差し掛かると、いつも通りの挨拶をしてみんなと別れる。

 で…俺もいつも通りことみを家に送っていったのだが……。


  ザァーーーーーーーーー!!!!
  ビュウゥーーーーーーー!!!!


 雨がかなり激しくなり、風も強くなり、雨がほとんど横殴りの状態で傘はさせそうには無い。
 つまり……。
 帰れません…………いや、帰れないことは無いのだろうけど、この状態で帰った場合、ずぶ濡れが確実で風邪をひくという嫌なオマケがついてくる。
 ことみに看病してもらえる、という可能性もあるが、わざわざことみに負担をかけることはしたくない。

「ことみ。雨と風が弱くなるまで雨宿りさせてもらっても良いか?」

「それは問題ないなの。でも、今、天気予報を見たけれどこの雨は朝まで続くって言ってたの」

「マジか?」

「大マジなの」

「泊まるしかないのか……」

 ………………………………。
 ん? ちょっと待て。泊まる?

 何処に? ことみの家に。
 誰が? 俺が。
 この家にいるのは誰だ? 俺とことみ。
 ……送り狼?

 いやいや、俺はそんなことはしないぞ。
 アイアム ジェントルマンだ。
 そんなことはしないからな、うん。

 ……状況把握終了。

「朋也くんがお泊りなの…」

 と、少し頬を赤くすることみ。

 DANGER! DANGER!

 そんな顔をされたら俺が正気を保てなくなるではないか!
 落ち着け!俺!!

  ドゴッ!

 取りあえず自分の頭を壁にぶち当ててみる。
 物凄い音がして、一瞬後、頭がとてつもなく痛いが、これで正気を保つことには成功した。

「とっ、朋也くん。どうしたの?!」

 ことみが突然にアレな行動をし始めた俺を心配してくれる。

「大丈夫さ、ことみ。さっ、ことみは取りあえずいつまでも制服のままじゃなくて、私服に着替えちゃえよ」

「? わかったの」

 自身の動揺を隠すようにことみの背中を押して、ダイニングから追い出した。

 さて、ホント大丈夫かな……俺、色々な意味で……。



 ――――ことみとの夕食も終わり、二人でダイニングで椅子に座りお茶を飲みながらまったりとする。
 なんだかこうして思うと新婚さんみたいだなぁ、と思う。

 ………………。
 ……そんな妄想をしてると、とんでもないことになりそうなので頭を振って煩悩を霧散させる。
 あっ、危ねぇ。少し間違えるとすぐに地雷を踏んでしいそうだ。
 こんな時は会話をしてごまかすに限る!

「なあ、ことみ――」

 ことみに話しかけようとした瞬間に窓の外の暗闇に閃光が走る。
 そして次の瞬間……。

  ゴロゴロゴロ!!

 雷が落ちて、大気を揺るがす。

「うおっ、びっくりした。か、雷か!?」

 ビクリ、と体を震わして、驚いてしまう。
 ことみが目の前にいることをかんがみると、屈辱を覚える。

「結構、近かったな。びっくりしたよな? ことみ?」

 …………返事が無い。

「ことみ? どうしたんだ?」

 よくよく様子を見てみると、体をフルフルと震わせている。どうしたんだ?
 なんだか心配になってきたな。
 席から立ち、近くによってみる。

「おい、大丈夫か? ことみ」

「………………」

「ことみ?」

 返事が無いので顔を覗き込んでみると……。

 目に光るものが見えた。つまりは……。
 泣いている、何故?
 そんな疑問がまず最初に浮かぶ。

 思考が頭を支配した一瞬に体に軽い衝撃が走る。
 後ろにへと倒れそうになるが何とか堪える。

 現実へと思考を戻すと、ことみが俺に抱きついていた。
 衝撃の原因はことみだったか……。

 …………………。
 そっとしておく方が良いだろうと思い、黙ってことみを抱きしめる。
 外では夕方より雨足が強まってきている。
 雷も鳴り始めているのだから当然だが。

「朋也くん……」

「うん?」

 どれだけ時間が経ったかどうかはわからないが、ことみがポツリと俺の名前を呼んだ。

「雷は嫌なの…………」

「どういう事だ?」

「お母さん達がいたときは泣いている私を慰めてくれたから大丈夫と思えたけの、でも、お母さん達が事故で死んじゃってから一人でこの家で過ごすようになって…………」

「…………」

「嵐が来て、雷が鳴るととても怖かったの、一緒にいてくれるはずのお母さん達がいないって事を思い知るから……」

 そうか……。
 そうだよな、そんな長い時を一人で過ごしたんだよな。
 俺がことみを忘れてしまったから……。

 ことみに寂しい思いをさせてしまった事を改めて思い知って胸の奥がチクリと痛む。

「雷はただの電光、雷鳴の激しい放電を伴う大気中の自然の電気現象とわかってるの。それでも、怖いの。そして、悲しくなるの……」

 そう言ってから、ことみはそっと俺の胸に顔を埋める。

 ことみらしい雷の解釈の仕方だ……。

「でも、今は俺がいるだろ? そして、杏や古河、藤林も」

 顔を埋めることみの耳元でそっと囁く。

「そうなの。頭ではわかってるの。でも、それでも、なんだか無性に悲しくなるの。おかしいよね? 今は皆が近くにいるのに……」

 なんだかこっちまで悲しくなってくるな……ことみがこんなにも、思いつめてたなんてな……。

「俺はな……いつまでも、傍に居たいと思うんだが、俺ではダメなのか?」

 ふっ、と埋めていた顔を上げる。

「朋也くん……」

 ことみが潤んだ瞳でじっと俺を見つめる。
 発言内容とあいまって顔が赤くなっているのが自分でもわかる。

「ことみ……」

 じっと見詰め合う。
 そして、ことみがそっと目を閉じる。
 俺は……。

  ピンポ〜ン

 良い雰囲気の中で雨の音に消えかかりながらも間の抜けた家のチャイムが鳴る。

「?」

「なんなんだ?こんな天気に…空耳かな?」

 そう言って、瞑っていた目を開けたことみの顔を見るが首を横に振る。
 どうやら、空耳ではないらしい。

「取りあえず、出てみるか?」

「はいなの」

 二人で玄関に向かい扉を開ける。

 雨風とともに人が転がり込んできた。

「はぁ〜、しかし、凄い雨よね〜」

「そうですよ〜」

「お姉ちゃんは行動力が凄いです」

 レインコートを羽織った杏、藤林、古河が玄関に転がり込んだのだ。

「お前ら一体、何しに来たんだ?」

 同じ心情であろうことみの声も代弁して尋ねる。

「いや、なんかことみが寂しがってるかなぁ〜、と思ってね。でも、朋也が居たんならそんなわけ無いか……」

「お姉ちゃんが『ことみちゃんの家に行くわよ!』と突然言い出して、渚ちゃんも呼んで来た訳です」

 レインコートはあまり役に立ってはいなかったらしく、三人ともずぶ濡れといった感じだ。
 言いだしっぺの杏はいいが、付き合わされた二人は悲惨だな。

「ふっふっふっ、朋也〜。ことみと二人でヨロシクやってたわけ〜」

「……その発言は親父だぞ、杏」

 ちなみに、杏の親父発言にことみは顔を赤くしているが……。
 わざわざ、墓穴掘る反応しなくていいのに……。

「はは〜ん。さては――――へっくちゅ!」

 俺達をからかおうとした杏だが途中でくしゃみをする。

「こんな雨の中を歩いてくれば体が冷えるのは当然なの。いま、お風呂を沸かすから入るといいの」

「あっ、わざわざ悪いわねー。ことみ」

「風呂に入るのはいいが、替えの服はどうするんだ? 今、着ている服はびしょ濡れとはいかないまでも結構湿ってるだろ?」

「その辺は大丈夫ですよ。ビニールを三重にしてその中に服を入れて持ってきましたから」

 そう言って、古河は手に持ったビニール袋を掲げる。用意周到だ。

「ことみ。タオルある?」

「こっちにあるの」

「あっ、お姉ちゃ〜ん」

 ことみに連れられて上がりこむ杏とそれを追う藤林

「あっ、あの、岡崎さん?」

 彼女達の背中を見ていると、一人残った古河が話しかけてきた。

「ん?」


「杏さんはああ言ってますけど、照れてるだけなんです。本当にことみちゃんを心配して来たんですよ、私達を呼んで…」

「わかってるよ。あいつは面倒見がいい、いい奴だからな。古河もタオルを貸してもらいにいけよ」

「はい♪」

 古河は嬉しそうにことみ達の後を追っていった。



 ――――次の日
 空は澄んでいて、雲一つ無い。
 昨日の大雨が嘘のようだ……。

「ふぁ〜」

「自称乙女の杏が朝から欠伸か?」

「うっさいわね。朝から辞書とゴッツンとしたい訳?」

「スミマセン」

 日曜の朝から眠りたくは無いので、素直に謝る。
 だれだって、自分の身が可愛いのさ。

「わかればいいのよ、わかればね」

「昨日はみんなとおしゃべり楽しかったの」

「俺は仲間外れでソファで寝てたがな」

「乙女の花園に男はいらないのよ」

「なの」

「です」

「そうです」

「ぐはぁっ」

 女性陣全員に断言されてしまった。
 少しへこむぞ……。

「さっ、今日は日曜日! みんなで遊びまくるわよー!」

「「おー!」」

 三人は俺より前を歩いて、ノリノリだ。おそらく徹夜明けでハイなだけだろうが……。

「朋也くん……」

「どうした? ことみ」

「朋也くん、やっぱり私は独りではなかったの。杏ちゃんがいて、渚ちゃんがいて、椋ちゃんがいて……」

 ことみは青空を仰いで……スッと俺の顔を見る。

「朋也くんがいるから」

 そう清々しい笑顔で言い切ったことみの足元の水溜りには空に架かった虹が映っていた。






   後書き、という名の言い訳

でっき「この作品は雨コンペの〆切に急いで書ききった作品です」

ことみ「なの。だから、そのおかげで誤字脱字等が結構あるの」

でっき「ぐはっ!」

ことみ「このHP、SS更新が遅すぎるの」

 でっきぶらしに改心の一撃!
 精神に致命的ダメージ

でっき「…………前回のSS更新から3ヶ月弱……申し訳ありません!」

ことみ「本当に申し訳ないの」

でっき「色々と課題とかで忙しくて……」

ことみ「毎日、チャットに出てる人の台詞じゃないの」

でっき「ううぅぅ、モチベーションが上がらなかったんだよ〜」

ことみ「言い訳は無用なの」

でっき「(無視) さて、Tomorrow is another dayとは、明日は明日の風が吹く、の英訳版です」

でっき「過ぎ去っていく、日常。未来にはきっといいことがある! 明日に希望を持て!ゲッターロ―――」

  ゴンッ!←辞書で一撃

ことみ「暴走する管理人さんには眠ってもらうの」

ことみ「この作品は雨コンペに出した時とは多少改訂が加えてあるの」

ことみ「春原君がチョイ役とか杏ちゃんのキャラがメインの私を食ってる、等の問題点は広い心で読んでくれると嬉しいの」

ことみ「では、今度は何時SSがアップされるか分からないけど、またね〜、なの」