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「あぁー…。もう…。」

あたしは薄暗くなりつつある公園の真ん中で空を見上げ、
既に何度目か数えられないため息をついた。

アイツがもてるのは、今にはじまったことじゃない。
だけど、やっぱりあいつがオンナに囲まれてるところは見ていられない。
それに…もう、アイツに、翔耶(しょうや)には最近ほとんど会っていない。

愛想…つかされたのかな。



コトは十数分前にさかのぼる。

誕生日を明日に控えたあたし、島津 美代(しまづ みよ)は
親友である今宮 佳奈美(いまみや かなみ)と商店街を歩いていた。
あたし達はともに現地の高校に通っていて、今年めでたく(?)受験生になった。
…これから忙しくなるから、その前にぱーっと憂さ晴らしを、ということになって。

けれど…

「あ〜あ、もう受験生かぁ…いやだなぁ」

「カナはいいじゃない、もう既にB判定だったんでしょ? あたしなんて…」

「うぅ…成績がいいだけだよぉ。運動なんてからっきしだし、オマケにドジだし…」

「そうそう、ナゴのウリはそのドジっぷりだもんねぇ〜。可愛いったら」

「もう、ミヨ! それほめ言葉じゃないでしょ!!」

「そう? あたしはほめてるつもりなんだけどな〜」

「もお…ぶぅ。」

佳奈美は、あたしを含めた友人達の間から「カナ」と呼ばれている。
この子はすぐにドジをして、すっごくおっちょこちょいで、それが見ていてすごく微笑ましい。
そんなのだから、本人は気づいてないけど男子生徒からすごい人気がある。

…まぁ、それを目の敵にしてるようなヤツも居るんだけどね。
でも、そういう自己中なヤツラからは、あたしが主にガードしてるからね。
それに…カナには、みんなにはナイショにしてる彼氏がいるし。

「…アレ? なんだろ、あの人だかり」

頬を膨らませて拗ねていたカナが、首をかしげて前を見つめた。

視線をめぐらせると…うわ、何あのオンナの集団…。
きゃあきゃあと甘ったるい声を上げながらオンナの集団が移動していた。
その中心に、ひときわ背が高く集団から頭二つほど飛び出ている人物がいた。
それは…。

「……」

軽く自然なウェーブのかかった茶色の髪の毛、やや切れ長の印象的な目。
背が高いこともさることながら整った顔立ち、黒いカッターシャツにジーンズ。
胸元には大降りのネックレスがかけられ、芸能界にも入れそうな容姿。

…あたしの、彼氏。三加和 翔耶(みかわ しょうや)。

ちょっとした企業の社長令息…つまるところ、家柄もオカネモチ。
今は大学に入っていて、経済学を専攻しているらしい。

…アイツ…こんなところで何やってんのよ…!

「…ゴメン、カナ、あたしちょっと用事思い出したから」

「…え? ちょっと、ミヨ〜!?」

あたしは逃げるように、その場から走り出した。

「美代っ!!」

後ろから、誰かの声がかかったような気がしたけど、
あたしは振り向きもせずにそのまま全力で走った。



「はぁー…」

またしてもため息が漏れる。

何で、あたしがこんな思いしなくちゃいけないのよ。

…オンナに囲まれているってだけなら、まだ良かった。
でも、あたしは最近アイツとは会えていない。
モノスゴク大学が忙しい、とかって言われて…ここ1週間、全く会っていなかった。
携帯でのやりとりはさすがにしていたけれど…。

なのにアイツは、あんなところでオンナ達と油を売ってた。
それが、許せなくて…怒りがこみ上げてくるけど、それ以上に悲しかった。
囲まれてたオンナの人だかり…ものすごく「オトナの女」という雰囲気をした人ばかりだった。
こんな…子供みたいなあたしと翔耶、釣り合うはずがない。
翔耶に愛想尽かされても、確かに不思議じゃないけど…。

「もう…」

顔を下に向け、なんとはなしに額を押さえる。

何度となく、翔耶とはそういう話をした。
あたしとあなたは、つりあわないんじゃないかって。
でも、翔耶は決まってこう言った。

『オレが誰に相応しいか、誰とつりあうかなんて関係ねぇだろ?
 オレはお前としか居たくない…それだけで充分だ。
 少しは、オレを信用しろよな』

そう、苦笑しながら言っていた。
でも…それは口先だけのことだったの?
翔耶…



「美代っ!!」

急に名前を呼ばれて、あたしはびくっとした。
その声が、すごく聞き覚えのある声だったから…。

「翔…耶…」

ゆっくり、恐る恐る振り向くと、翔耶がそこに立っていた。
わずかに、息を切らして。

「…何やってんだよ、こんなところで」

静かにこっちに歩み寄ってくる。
でも、あたしは翔耶から逃げるように後ずさりしながら言った。

「翔耶こそ…翔耶こそ、あんなところで何やってたの!?
 大学が忙しいからしばらくそうそう会えない…って、言ってたのに。
 なのに…あたしに嘘ついて、あんなところでオンナと遊んでたっていうワケ!?」

翔耶はため息をついて頭をかきながら口を開く。

「浮気か何かとでもおもってんのか?」

「違うんなら、何だって言うの!」

「そんなんじゃねえからな」

「だから、違うんなら何なのよ! 何であんなとこに居たの!?」

きっと翔耶を睨みつけながら問い詰める。
けれど…翔耶は何も言わず、沈黙した。
…なんでよ。何で黙るのよ!!

♪〜♪〜♪♪〜♪〜♪♪

ちょうどそのとき、携帯の着信音が響いた。
翔耶が急に慌てて、自分の携帯を取り出すとそれを耳に当てる。

「はい! はい…そうですか! わかりました、今から行きます!」

ぴっ…携帯を切ると、翔耶はあたしに向かって

「美代、お前いったん家に帰ってろ! いいな!」

そう言い残して、翔耶はくるりとあたしに背を向けると一気に駆け出した。

……

一人取り残されたあたしは、拳をぎゅっと握り締めた。

どうして、何も言ってくれないの?
あたしに言えないことなの?
どうして…何か言ってよ…不安になるのに…
こんな大事なことだっていうのに…翔耶は、話の途中で、行っちゃうの?

――どうしてよ…――


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