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<3>



「でも翔耶…バイトなんかしなくたって、充分お金持ってるじゃない」

ホテルの一室の中で、夜景を鑑賞しながら翔耶の肩に頭をこつんの乗せていたあたしは
髪の毛をなでてくれている翔耶にぽつっと言い訳のように呟いた。

――あの後、レストランの個室に案内され、美味しい料理を頂いた。
涙が流れてきて、ちょっとしょっぱく感じてしまったけど…。
マナーは、聞かないで。個室だったから、少しぐらいは勘弁して。

それから翔耶はホテルのスイートルームに案内してくれた。
内装もモノスゴク凝っていて、一目で最高級レベルのスイートルームだとわかった。
お風呂場にも大理石が敷き詰められ、当然のようにジャグジー付き。
『一緒に入るか?』とおかしそうに言ってきた翔耶を押し止めながら、お風呂を満喫し
そして…なんともなく、窓から広がる素敵な夜景を見ていたのだった。

「バカ。お金っつったって親父の会社の金だろ。そんなの使えるかよ」

「…普段、お父さんの会社のお金で生活してるんじゃないの?」

「そりゃそうだけどさ…」

翔耶が顔を赤らめながら、視線を逸らした。

そうよ…言い訳だけど、はじめからお父さんとこのお金を使ってくれてれば
あたしだってあんな勘違いしなかったのに…。
…言い訳だけど。

「――やっぱり、一番大事な女への贈り物は、自分で稼いだ金で買ってやりたいんだよ」

『一番大事な女』

あたしは、多分翔耶に負けないくらい顔を赤くしてると思う。
だって…顔がものすごく熱いもん。

「もうそろそろだな」

翔耶が壁にかかっている時計を見た。
その針は…今にも、12:00を指すところ。

そして――


ボーン……ボーン……


その時計が音を立て…
あたしは、18歳になった。


「誕生日、おめでとう……美代」


あたしの耳元で、優しくささやいた翔耶。

「ありがとう…翔耶」

翔耶に会って初めての誕生日。
…今までの中で、最高の誕生日。
翔耶が誰よりも初めに祝いたいと言っていたように…
あたしも、誰よりも翔耶に先に祝ってもらいたかった。

「…これ、開けてみろ」

そう言って翔耶が差し出したのは、小さな小箱。
一目見て、指輪を入れるケースだとわかる。

…これって…

視線で翔耶に問いかける。

「いいから開けてみろって」

翔耶が意地悪そうに笑いながらあたしを促した。
あたしはこくん、と小さく頷いて、そのケースを開ける。
中から出てきたのは――銀色に輝く宝石が中央にはめられた、シルバーのリング。

「これ…って…」

あたしはその指輪を手にとって、再び翔耶に問いかけた。
翔耶は指輪を取ったその指に触れながら、耳元で囁く。

「この石は…お前の誕生石だよ」

…嘘…
だって、あたしの誕生石って…4月の誕生石って、

「ダイアモンド…?」

あたしの言葉に、翔耶が頷く。

「嘘――だって、高いんじゃ…!」

「ああ、結構値段が張ったぜ」

「翔耶…」

「まさか、要らないなんて言わないよな?」

ボロボロと涙が零れ落ちてくる。
おそらく、これも…翔耶が自分で働いて、稼いだお金で買ったもの。

あたしの…あたしなんかの、ために。

「翔…耶ぁ…」

ああ…もうダメだ。
こんなに…一日にこんなに何度も泣かないといけないなんて。
ずるいよ…翔耶。

そんなあたしの涙を翔耶は自分の唇で拭い、指輪をそっと取り上げて
あたしの薬指に、はめてくれた――

「オレが…こんなに美代に溺れてるのに、まだ信用してねーみたいだしな」

薬指に光る指輪にキスして、翔耶は呟いた。
信用…してないわけじゃないんだよ。
また、言い訳じみてるかもしれないけど…不安なの。

翔耶が、どこかに行っちゃうんじゃないかって…すごく、不安なんだよ?

「こんなに溺れさせといて…責任、とってくれんのか? お姫様」

耳にふっと息をかけられ、あたしはびくっと反応してしまう。
そして、またあの意地悪そうな笑みを浮かべると、突然あたしの体が浮いた。

――え、これって…お姫様だっこ、ってやつ?

「ちょ、離して翔耶! 重いよ!!」

「ああ、重いな」

「…って、はっきり言わなくてもいいじゃない! バカッ!!」

むかぁーっ! こういう状況でこんなこと言う!? この男はっ!!
あたしは翔耶の腕の中で思いっきり暴れる。

「だっ、暴れんな! 軽くても困るだろうが!」

「うるさいっ!」

「だーかーら! 人の話を聞けって!」

翔耶は振り回されるあたしの腕を器用にかいくぐって、
あたしの耳元で不意打ちするかのように囁いた。


「一番大切な女の命と想いを支えてんだ…軽いわけないだろう?」


…ああ…
あたしは、もう消え入りそうなくらい赤面するハメになった。


翔耶はあたしを抱きかかえたまま寝室に移動し、
そっとあたしをキングサイズのベッドに横たえた。
そして翔耶は上着を脱ぎ、傍にある椅子にかけた。

「翔耶」

「美代」

あたし達はお互いの名前を呼び合い、そっとキスをする。
唇を触れ合わせるだけのバードキスを繰り返しながら…

やがて、翔耶があたしの体に手を回して抱きしめる。
あたしもそれに答えるように、翔耶の体をぎゅっと抱きしめた。
すらっとした長身のわりに、引き締まった筋肉がしっかりついているのがわかる。

…あたしだけの、翔耶…

あたし達のキスはやがて軽い物ではなくなっていく。
互いの唇を貪り…そして、翔耶の舌があたしの口の中に入ってきた。
翔耶の舌が食いしばったあたしの歯の上をなぞるたびに、体がぞくぞくとしてくる。
あたしも自分の舌を差し出し、翔耶の舌と絡む。
翔耶の舌が転がすようにしてあたしの舌を蹂躙してくる。
薄暗い部屋の中には、あたしと翔耶のキスの音以外、聞こえなくなる。

まるで、この世界に自分達しかいなくなるかのような感覚…。

「…悪い、美代…あんまり余裕、ない」

キスを中断した翔耶が切羽詰ったような切ない表情であたしを見つめてくる。
あたしはこくん、とまた小さく頷いた…



「ん……ふぁ……」

翔耶がキスしながら器用にあたしの服のファスナーを降ろしていく。
あらわになった肌を優しく撫でるように愛撫してくる。
彼の指を直に感じて、あたしの体がびくっと反応した。

やがて、翔耶は服の隙間から手を差し入れ、あたしの胸に触れてくる。

「やぁ……んぅ…」

口から声が漏れてしまい、あたしは口を堅く閉ざした。

「美代……美代の可愛い声、ちゃんと聞かせて」

囁くように言われて、あたしはまたとろけるような感覚を感じた。
その隙に着ていた服をするっと下ろされる。
あらわになった体が、ほんの少しひんやりと感じた。
けれどあたしの体を撫でてくる翔耶の手は、とても熱くて…。

「ひゃ…だ、ダメ、翔耶ぁ……」

突然あたしの首筋に翔耶が舌を這わせてきた。
温かく滑らかな感触を感じる。
そして、翔耶の手があたしの背中にまわり…パチンとホックを外した。

「んん…は、あぁ……」

胸を隠す間もなくブラを外され、そして翔耶の指がその膨らみに触れる。
あたしの胸を包み込むように触れて…やさしくその谷間にキスをしてきた。

「やぁ…だめ、はずかしいから……ふぅ、ぁ…」

やがて彼の唇があたしの首筋からすぅっと降りていき…

「…っ! んんんっ……!」

膨らみの頂を口に含んだ。
そのまま舌でその先をころころと転がされる。

「はぁ、はあ、くぅ……っ!」

「美代、ここが弱いんだよな」

「……なっ! ば、ばか…ぁぁん……!」

翔耶の言葉の一つ一つにさえ、あたしの体は反応してしまう。
やがて右だけでなく、左の胸の突起にも彼の口は迫る。

「はぁぁっ…ふぁ、はぁ…」

もう声を止めるなんて理性は残っていなかった。
あたしは彼がその手と唇から与えてきてくれる快感に酔う。
自分の体が自分の物じゃなくなっているかのように反応する。

「…んんぅぅっ!! だ、だめ、しょうやぁ…!」

いつのまにかあたしの着ていた服は脱がされ、下着姿にされていた。
そして翔耶の指があたしの下半身の中心に触れている。
あたしはおもわず脚を閉じようとするけれど、翔耶の体が間にあって閉じられない。

「はぁっ、ああっ、んんぅ……っ!」

中心に触れるだけでなく、かすめるようにあたしの蕾に触れていく。
瞬間に駆け抜けるような快感に、あたしの体がびくびくと震えた。

「ダメじゃない。言ったろ…もう、余裕ないから」

そう言って翔耶はあたしの胸元にキスをする。
ちゅっ、と音を立ててそこを吸った。ちくっとした痛みを感じる。

「ぁ…だめ、そんなの、残したら……んんぁ!」

胸元に残った紅い痕を確認したあたしは翔耶に抗議をしようとするけど、
それも翔耶の指によって遮られてしまう。

やがて、翔耶はあたしの胸の頂を口に含み、左手で右胸を、右手で花芯を捕らえた。

「んんぅぅっ! だめ、しょうやぁ……はぁ、ああ、んんんっ!!」

全身を断続的に駆け抜ける快感。
あたしはもう何がなんだかわからなくなって、ただ快感を貪ることしか考えられなくなる。

「美代の胸元に、オレのキスマークが残ってるな」

「やぁ…んんん! だめ、翔耶ぁ……!」

「服着てたって見えるし。美代が、オレのものだっていう証拠」

「はぁ、くぅ、ああっ……! 翔耶、あたしの、あたしだけのっ……!!」


「ああ…美代はオレのもの。オレも…おまえだけのものだ」


耳元で囁かれて、あたしは急激に昇り詰めていく。

「ああっ、ふぁぁん、ああっ、あああっ!!」

ぐい、ぐいっと強烈な波が襲い掛かってくる予感。
あと少し…あと少しで…

「んああんっ!! イク、イクッ……!!」

来たっ……ものすごく大きな波。

「美代…愛してる」

「…………ッッッ!!!!!」

翔耶の声がトリガーになって、あたしは一気に昇り詰め……果てた。



あたしのそこはもうこらえ切れないように熱くなってしまっている。

「美代……悪い、もうオレも限界」

そういうと、翔耶は手早く自分の衣服を脱ぎ去り、あたしに覆いかぶさってきた。

「ぁ……しょう、や、ちょっとまって、あたしまだ…」
「ダメ。待てない」
「や、ちょっと……んんっ!」

翔耶があたしの中に押し入ってきた。
一瞬だけ、鈍い痛みを感じたけど……すぐに、快感に取って代わる。

「……ああぁっ! 翔耶、だめ、ふぁぁっ!」

そのまま翔耶はあたしをぎゅっと抱きしめながら動き始めた。
いつもよりも段違いに速いペースで…。

「お前…も、オレのここまで、狂わせといてっ…!」

「やぁ、翔耶、翔耶ぁ……あぁんんっ!!」

あたしの首筋を強く吸いながら、翔耶はあたしのそこを蹂躙した。
翔耶が与えてくる強烈な快感に、狂ってしまいそうになる。

「はぁっ、はぁっ、ああぁっ!!」
「美代…美代っ!」
「翔耶ぁ……ああんっ!」

もう、翔耶しか見えない。
翔耶の逞しい体があたしを抱きしめ、狂いそうな快感を与えてくる。

「や、やばい…そんな、締めるな……」
「…ばっ! は、ふぁあ……!」
「…っく、だから、止めろって!」
「ああぁっ……そんなこと言ったってっ……」

理性なんか何もなしに、あたしは翔耶の腕の中で乱れた。
翔耶があたしの唇を貪ってくる。

「……っはぁ、美代…っ!」
「翔耶、翔耶ぁっ……!」
「美代……愛してる…」
「あたしも…っ!! 翔耶を、愛してるっ…!」

お互い、そう言いながら再び唇を貪った。
自分達以外のことは何も考えず、ただお互いだけのことを想って…。

「…んんぁっ! 翔耶、あたし、もぅ……っ!!」

しばらく唇を貪っていたけれども、あたしはもう限界だった。

「イケよ…オレも、もう、限界だか、ら……くっ!」
「はぁっ、ああっ、ダメぇ……っ! んんっ!!!」

あたしは目の前の翔耶の目を見つめる。
切羽詰ったような、すごく潤んだ綺麗な瞳……
何かに耐えているような切なげなその表情を見て、あたしはまた昇り詰めていくのを感じる。

「……!! ………!!!!」

声どころか息すら満足にできなくなり、あたしは口をパクパクとさせる。

「み、よぉっ……!」
「…………あぁぁぁっ!!」

翔耶がひときわ強く体を揺さぶり…あたし達は、同時に果てた。




「ね、翔耶…」

「何だ?」

「コレ、左手につけてもいい?」

情事が終わった後、あたしは翔耶の胸の中で、自分の「右手」を差し出して言った。
その薬指には、さきほどの指輪が光っている。

…できれば、『左手の薬指』に付けたいなぁ…

「ダメだ」

でも、翔耶は即答した。

「…何で?」

「ばぁか。どうしてオレがプラチナじゃなくてシルバーのリングにしたか、わかってんのか?」

「…それこそ、何で??」

「はぁ…ほんっと、鈍いのな」

バカとか鈍いとか……そんなに連発しなくたっていいじゃない。
けれど、そんなこともあたしには許せてしまった。
何故なら……翔耶が、あたしの左手を取って……


「プラチナは、こっち用な」


そう言って、その薬指にちゅっとキスしてくれたから…



Fin.



作者ナルタのコメント:

すみません…やっぱり書いてる本人が悶えてしまいました…。
でも、自分で稼いだお金でプレゼントを買う翔耶、そして高級ホテルにご招待…かっこいいですね、やっぱり。
男を名乗るならやっぱりこうでないといけませんね。
まあともあれ、でっきぶらしさん、10,000Hitおめでとうございます。
というわけで、恒例の。

Thank you for reading.
このお話をここまで読んでくれて
あ り が と う

5/15/05

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