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<3>



バタン

「…はぁ」

あたしはあれからすぐに”ムーンヴィレッジ”を離れ、そのまま帰路についていた。
…あたしが飲んだカクテルの代金は、巧が負担してくれた。
本当は、お客であるあたしが払わなければならないお金だったのだけれど。

彼が隣にいないのは、今までもそうだったけれど…すごく寂しい。
巧と手を繋いで、街を歩きたい。
巧の隣で、色んなところへ行きたい。

「仕方がない、よね」

ふぅっと息を吐き、あたしは一人ごちた。

『ホスト』という職業である以上、彼の隣にずっといることができないのは仕方がないこと。
それは割り切っていた。彼と付き合うことを決めた、その夜から。

それでも…彼と一緒に歩けないのが寂しい。

ホストである以上、彼は仕事として別の女性達と一緒に居なければならない。
別の女性に夢を与える。それが巧のシゴト。
だからこそ…辛い。
綺麗な女の人だって、あのホストクラブにはいっぱい来る。
あたしなんかより、よっぽどきれいでおしとやかな人達が。

巧の当の恋人であるあたしは、そんなに綺麗じゃないし体だって貧相。
彼の隣を歩いていて、釣りあっているように見えるわけがない。
それどころか、彼の隣など歩こうものなら、彼に恥をかかせることになるかもしれない。
仮にもNo.1ホストである巧があたしのような下らない女と付き合っているなど。

…巧はあたしにもすっごく優しい。
もし彼に恥をかかせているということであっても、彼がそれを自分で言うことはないだろう。
でも、彼が優しいのは誰に対してもそう。
ホストという立場上、女性を軽蔑したりすることが認められていない。
あたしも…彼にとっては恋人なんかじゃなくて、ただの「常連客」なのかもしれない。

(…いやだ)

考えたくない。そんなはずはないと思いたい。
けれど、巧が箸にも棒にもかからない様なあたしなんかにこんなに優しくしてくれる理由が、他に見当たらない。

あたしは…ただの、お客なの?
あなたの、ただの商売相手…なの?

「たくみぃっ…」

ベッドに突っ伏したあたしは、愛しい彼の名前を呼ぶ。
こんなこと考えてはいけないのに…彼を信じないといけないのに。
気がつけば、あたしの目から生暖かい液体が零れ落ちる。

「はやくきてぇ…」

早くあたしの思い違いを解いて。
早くあたしのことを好きだと言って。
あたしだけだって…言って…!!



「…こ、しょ…こ…」

…だれ…あたしのこと…よんでるの…??
からだが…おもい…そっとして…

「祥子っ!!」

突然声がはっきり聞こえて、あたしは跳ね起きた。

「…巧…?」

暗い、おぼろげな視界の中で、あたしは彼の顔を見た。

「祥子…泣いてる?」

あ…
あたしは頬に手をやる。
そこには、目から下へと零れ落ちるように赤い濡れた後が。

「…祥子」

巧があたしの体を抱き起こし、すっとあたしの瞼に優しくキスをした。

「…たくみ、たくみぃっ!!」

あたしは思いっきり彼の体に抱きついた。
彼の香りに混じって、今度は女の人の香りがした。
それが悲しくて、あたしの目からまた涙がこぼれ始める。

「祥子、祥子…泣かないで」

巧があたしの背中をさすりながら、やさしく言った。

あたし以外の人に、やさしくしないで。
あたし以外の人に触れないで。

そんなあたしの心の悲鳴も、声に出して彼に言うことができない。
あたしが嗚咽をあげる間、巧はあたしを抱きしめながらずっと、励ましてくれた。



「君は僕を侮辱してるの?」

え…?

ようやくあたしが落ち着いたのを見計らって、彼は突然そう言った。

「…どう、して?」

「箸にも棒にもかからない様な女を、この僕が相手にしていると言いたいの? 君は」

…もしかして、あたし…

「喋ってた…?」

「もちろん」

彼の大きく繊細な手が、あたしの顔を掴む。

「ただの客だと思っているのなら、僕は勤務外の時間にまで君の部屋に来たりしない。
 好きでもない人を抱かないし、嫉妬しない。ましてや、お客相手にお酒の代金を払ったりしない」

はっきりとした声で、そう言い放った。

「もっと自分に自信を持って…君は自分で思っているよりもずっと可愛くて、綺麗だよ」

巧があたしを抱きしめた。

「巧…女の人の香りがする」

「君の香りが移っただけだよ」

あたしの目から、涙があふれ出す。
あたしは香水なんかつけていないのに…こんな香りの香水はつけていないのに。
なのに、わざとこんなこと言ってあたしを安心させようとしてくれてる。

「あ、ぅうん…」

…あたしは、何もできないのに…
そう言おうとしたあたしの口が、彼の唇でふさがれた。

「何もできないなんて、考えてる?」

(…どうしてこの人は、ことごとくあたしの考えていることがわかるんだろう)
まだ口には出していないのに。

「君に出会うまでの僕は…ずっと闇の中にいた。
 ホストという仕事の中で、女性を愛する心というものを全く持たない、闇の世界に。
 そこから僕を解放してくれたのは祥子、君だよ。
 君に出会えたから…僕は愛することを思い出すことができた。
 光の世界へ…君が、導いてくれた」

涙が、止まらない。

マジメな顔して、こんなことを言っている巧…
あたしにはもったいないのに、こんなことを言ってくれる。

「た、くみ…」

ダメだ、また泣いちゃう…
目から零れ落ちた涙を、巧が唇で拭ってくれた。

「大丈夫だよ…シャワーを浴びておいで」

あたしの目を、愛おしげに見つめながら巧が言った。



「ん…くぅ…」

シャワーを浴びて、お風呂場から出たあたしは、そのままベッドで巧に押し倒された。
激しいキスを続けながら、バスローブ越しに胸に触れてくる。
下から包み込むように揉み上げられ、あたしの体はいやおうなしに反応してしまう。

「たく、みぃ…」

「僕がこんなことをするのは、祥子だけだ」

一旦あたしの唇を解放した巧の口は、今度はあたしの首筋に落ちた。

「きゃっ…はぁっ」

鎖骨のあたりをちろちろと舐められる。
その間も、あたしの胸への愛撫は止まらず、逆に激しくなっていく。

「ふぁっ…んんん…っ!」

思わず声が出そうになるのを、あたしはぐっと堪える。

「声は我慢しないように」

顔を上げた巧が釘を刺す。

「だ、だって…」

「せっかくの可愛い祥子の声、聞けないのはもったいないでしょう」

「ひゃあっ!?」

突然、脚の間からビリビリとした強烈な感覚が走り抜けた。
あたしの女の子の部分に触れられて、ソコから強烈な快感の波が全身を襲う。
あたしは不意打ち気味にはしたない声を上げてしまう。
けれど、彼がソコに触れたのは一瞬だけで、すぐに手を離してしまった。
変わりに、止まっていた左胸への愛撫が再開される。

「あ、んん…」

気がつけば、彼は上半身の服を脱ぎ去り、あたしのバスローブから胸を露出させていた。

「ふぁ…で、電気消して…」
「ダメ」

あたしの懇願も空しく、灯りが灯っている部屋の中で、あたしの痴態が浮かび上がる。
胸の頂上にあるピンク色の突起が、すでに堅くなって自己主張している。

「んぁ…ぁ、くぅ…」

巧の手が直にあたしの胸を掴む。
そのまま、少しだけ乱暴に揉み解された。
彼の手の中で、あたしの乳房が次々と形を変える。

「はぁっ…あぁん…」

もう声を我慢する余裕も失っていた。
先端の突起に触れようとしない巧の手の動きに、あたしはもどかしく感じていた。
(…そこに、ちゃんと触って…)
心の中でそう訴えているのに、彼の手はそこだけを避けるようにあたしに刺激を加えている。

あたしは彼の目を見つめた。
その視線を感じた彼と目が合う。巧がくすっと笑った。
あたしの状態を、見て取ったに違いない。
なのに…

「んくぅ…た、巧ぃ…」

「何?」

ちっともそこに触れようとしてくれない。
乳首の周辺をこするように触って、あたしの反応を見て楽しんでいる。

「…はぁ…はぁ…あぁっ…ふぅ、ぁん…」

あたしの状態がわかっているはずなのに。
そこに触れて欲しいと願っていることに、気づいているはずなのに。
彼はずっとそこに触れずにあたしの体で遊んでいる。

…ああ、また焦らされるんだ。
そう思った瞬間、

「ひゃああぁっ!?」

予想を反して、突然彼はあたしの左胸の突起を口に含んだ。
そのままその先端の部分にキスするように啄ばめ、甘噛みされる。
そこからの突然の感覚にあたしの上半身が跳ねる。

「あ、んふ、ふぁあ…」

右胸の方にも手でつままれ、あたしの胸から広がるように快感が伝わる。
左胸は彼の口の中で舌に転がされ、吸われ、甘噛みされる。
左右両方に断続的に広がる甘い、そして激しすぎる感覚。
さきほど一瞬触れられた、あたしの女の子の部分が疼いてくるのがわかった。

「はぁっ…たくみ…」

「もっと呼んで、その声で…もっと甘えて、その顔で…もっと…」

「はぁっん!!」

バスローブが完全に脱がされ、あたしの愛液に濡れた花弁に、彼の手が触れる。
くちゃくちゃとそこからとびっきりえっちな音が聞こえてきた。

「やぁ…音、立てないで…」

あたしは巧に懇願するのに、彼はちっともその手を緩めてくれない。
あたしの花弁を押しのけ、その蕾の周りを撫ぜ始める。

「はぁっ…やだぁっ…」

あたしの腰が勝手に動き出そうとする。
けれど、彼の手があたしの体をがっちりと捉えていて、動かせてくれない。

「やだって言うわりに、気持ちよさそうにしてるよ?」

「きゃ…ちが…はぁんっ…」

反論しようとしても、彼の綺麗な指があたしを黙らせる。
股間から広がるより深い快感があたしを押しつぶそうとする。
あたしの頭の中が熱に支配され、彼の存在のみを感知させる。

「…うっ…ああっ…!」

さんざん焦らされた蕾に、彼の指が触れた。
そのまま、その蕾の皮をめくるようにして、くいくいと小刻みに動かされる。

「…あ…ふっ…ん…!」

そこから次々と蜜があふれ、あたしのソコの周辺と巧の指を濡らしていく。

「…あ、ああっ…ダメ…っ! ああんっ!」

巧の指があたしの膣内に入ってきて、その中で指が蠢く。
甘いバリトンの声が悪魔のようにあたしに囁く。

「…もう我慢できないでしょう…?」

あたしはもう既に理性が吹き飛んでいた。
彼の言葉に、ただただこくこくと頭を振る。

巧はあたしの体を一旦解放すると、自らの下半身を覆っていた服を脱ぎ去った。
彼の中心に立っているものを思わず直視してしまい、あわてて顔を背ける。
どこからか巧は小袋を取り出し、びりっと破って中のものを自らの中心に着ける。

(…ちゃんと避妊してくれてるんだ…)

今更ながら、ちょっと感心する。

けれど、そんな余裕なことを考えていられるのはここまでだった。
彼がこちらに向き直り、あたしの熱くなっている中心と巧のそれとが触れ合う。
それだけでも、びくびくとあたしのそこは反応してしまっていた。

しばらくおいてから、巧が徐々に腰を進める。

「あ…んん…っ」

自分の中へと少しずつ埋まっていく巧。

熱を帯びた身体は更なる熱を求め、巧の侵入を待ち望んでいるというのに、
それはいっこうにそれ以上進んでくる気配が無かった。
宙ぶらりんの状態で私はしばらく巧の出方を待っていたけど、
その間中体の中心が鈍い痛みを伴って、今以上の刺激を求め泣き叫ぶ。

「…ふぁ…っ…!」

あたしが抗議の声を上げようとした直前、それが一気にあたしの中に埋まった。

「…はぁ…」

完全に奥まで進入した巧が、切なげな吐息を漏らす。
それがあたしの耳元であったため、その吐息であたしの体が反応する。

「たくみ…」

「くどいけど…僕がこんなことをするのは、君だけだ」

ゆっくりと巧が動き出す。
あたしの中を全部かき回すように…

「はぁ…ぁふ…」

先ほどよりも弱いけれど、深い快感。
彼と繋がっているということが、あたしの心をも感じさせてくれる。

「…ひゃん…ああ…はぁ…あっ…ん…」

繋がったまま、巧があたしの乳房を激しく揉み上げる。
彼の口があたしの首筋を捉え、舌が妖艶にあたしの肌を舐め上げる。
巧の綺麗な指があたしの胸を掴んでいるのを見て、体がどんどん高ぶっていく。

「…は…はぁっ…た、たくみ、たくみぃ…っ!!」

まだ挿入ってから幾分もたっていないのに、もうあたしの限界が近づいてきていた。
それを感じ取った巧が、あたしのもっとも感じる部分を探り当てて擦った。

「…ぁあっ! んんんんっ…!!!」

強烈な快感に、あたしはなすすべもなく昇りつめさせられた。
彼のものを締め付け、そこから広がる感覚を味わいつくす。

「…祥子」

彼はくたっとしたあたしの体を抱き起こした。
そのままあたしは彼の腰の上に腰掛けるような形になる。

「…た、巧?」

そのまま巧はあたしの腰を掴んで、前後に動かし始めた。

「きゃっ…ひゃぁ…っ!」

まだ昇りつめた余韻が終わっていないあたしの体を蹂躙する彼。
もはや他のことを何も考えられず、その快感を与えてくる彼を受け止めるしかなかった。

「祥子…もっと…」

「…っ! …ふぁ…ああ…っ…!」

深く身体に刻み付けるような動きにあたしは否応なく反応する。
あたしの身体の中心で生まれた激しい嵐が徐々に勢力を強めて荒れ狂い、
あたしをその中へと飲み込んでいく。

「…っだ…ダメッ…! ヤダヤダ…た…」

「祥子…しょうこっ!!」

灼熱の燃えるような吐息をこぼしながら巧はあたしを更に突き上げた。

火花が飛ぶ
体中を火柱が襲う
放電したかのように体内に痺れが駆け巡る

今までに感じたことがないくらい激しい絶頂に包まれた。

「…はっ…く」

彼のものがあたしの中でびくびくと震える。
彼も達したのだろう。

「…っはぁっ! はぁ…はぁ…」

強すぎる快楽に止まっていた息を、あたしはようやく吐き出すことができた。
巧があたしにキスをしてくる。

「…祥子?」

「…はぁ…な、なに…?」

ようやく息がついたところを、巧が口を開く。

「今日は限界まで挑戦しようか」

「…へ…?」

一瞬巧の言ってることが分からなかった。
けれど…『限界』というのが何を指しているのか、それに気づくのに時間はかからなかった。

「言っておくけど、祥子の限界じゃないよ。僕の限界」

「…っ!?」

無理無理っ! あたし壊れちゃうっ!
だいたい巧に限界なんてなかったじゃない!

「僕のことを侮辱しかけた罰」

彼の悪魔じみた笑みを見ながら、あたしは絶望感に包まれた。





「…さすがにやりすぎたか」

あれから5度ほど祥子を達させた巧は、気を失って眠る祥子を見ながら言った。
巧がこれほど激しく彼女を求めたのは、彼女を初めて抱いた時以来だ。

「困ったお姫様だな…僕をここまで狂わせるとは」

(狂わせるだけじゃなく、救ってもくれたけれど…)

『帰る場所』というものを実感していた巧は、眠る彼女の耳元で囁いた。


「祥子…君の見た目がいかに魅力的じゃなかったとしても…
 僕は君を求めて…君を抱いていただろうね…

 一つだけ…謝らないといけないことがある。
 僕の役に立つ、立たない…そんなことはどうだって構わない。
 何もできない、箸にも棒にもかからない様な女で居てくれてもいい。

 …でも、僕から離れたい、というのだけは許さないよ。
 僕に見初められたのが、運の尽きだと思って諦めて。

 …絶対に、手放さないから。
 僕の、愛しい、光の天使――」



Fin.



作者ナルタのコメント:

長い。ええ、その一言に尽きます。
こんな長い話にしちゃってごめんなさい。前もそうでしたけど。
…男性の方にはあまり評判良くないかもしれませんねぇ…ホストが彼氏っていうネタは。
とりあえず。

Thank you for reading.
このお話をここまで読んでくれて
あ り が と う

7/24/05

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